毎年秋になると話題になる「最低賃金の引き上げ」ですが、令和8年度も全国的な引き上げが見込まれています。パートやアルバイトを雇用している企業はもちろん、正社員であっても地域や業種によっては最低賃金に近い水準で働いている方がおり、影響を受ける事業者は少なくありません。「今年はいつから、いくら上がるのか」「何を準備しておけばよいのか」と気になっている経営者・人事労務担当者の方も多いのではないでしょうか。この記事では、令和8年度の最低賃金改定の目安と決定までの流れ、企業が10月の改定までに済ませておきたい実務対応について、初心者にもわかりやすく解説します。
なお、最低賃金の最終的な金額は都道府県ごとに決定され、本記事の執筆時点ではすべての都道府県で正式決定がなされているわけではありません。ご自身の事業所が所在する都道府県の最新の金額や発効日は、厚生労働省または各都道府県労働局の公表情報で必ずご確認ください。
最低賃金とは何か
「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」がある
最低賃金には、都道府県ごとにすべての労働者に適用される「地域別最低賃金」と、特定の産業について設定される「特定最低賃金」の2種類があります。一般的に「最低賃金」という場合は、地域別最低賃金を指すことがほとんどです。使用者は、地域別最低賃金額以上の賃金を労働者に支払う義務があり、これはパート・アルバイト・契約社員・正社員など雇用形態を問わず適用されます。
最低賃金を下回った場合のリスク
最低賃金を下回る賃金しか支払っていない場合、その部分の定めは無効となり、最低賃金額で契約したものとみなされます。差額の支払いが必要になるだけでなく、最低賃金法違反として罰則の対象となる可能性もあるため、経営者・人事労務担当者は毎年の改定内容を確実に把握しておく必要があります。
令和8年度の最低賃金改定はどうなるのか
中央最低賃金審議会が示した引き上げの目安
厚生労働省の発表によると、令和8年7月28日に開催された第75回中央最低賃金審議会において、令和8年度の地域別最低賃金額改定の目安が取りまとめられました。都道府県は経済実態に応じてA・B・Cの3ランクに分けられており、引き上げ額の目安はAランクが54円、Bランク・Cランクがそれぞれ56円とされています。この目安どおりに改定が行われた場合、全国加重平均は1,176円となり、上昇額は55円(前年度は66円)、上昇率は4.9%(前年度は6.3%)となる見込みです。
最終的な金額は都道府県ごとに決定される
中央最低賃金審議会が示すのはあくまで「目安」であり、実際の最低賃金額は、この目安を参考にしながら各都道府県の地方最低賃金審議会が地域の賃金実態調査や参考人の意見等を踏まえて審議し、最終的に都道府県労働局長が決定します。そのため、目安どおりの金額になるとは限らず、都道府県によって金額や上げ幅に差が生じることがあります。厚生労働省の公表資料では、令和8年8月時点で答申を終えた都道府県が順次発表されている段階であり、確定額は今後発表される内容をご確認いただく必要があります。
発効日は例年10月が中心
最低賃金の改定は、例年10月1日を中心に、都道府県ごとに異なる日付で発効します。10月のどのタイミングで発効するかは都道府県ごとに公示されるため、複数の都道府県に事業所を持つ企業は、それぞれの発効日を個別に確認しておくことが大切です。
企業が10月の改定までに済ませておきたい実務対応
自社の給与水準を確認する
まず、自社で雇用しているパート・アルバイト・契約社員等の時給・日給が、改定後の最低賃金額を下回らないかを確認します。特に、最低賃金に近い水準で雇用している従業員が多い企業では、改定額が確定した段階で早めに給与台帳と照らし合わせることが重要です。
月給制・日給制の場合は時給換算で確認する
最低賃金は時給で示されますが、月給制や日給制の従業員についても、所定労働時間で割り戻すなどして時給換算した金額が最低賃金を下回っていないかを確認する必要があります。基本給だけでなく、精皆勤手当や通勤手当、時間外労働の割増賃金など、最低賃金の対象に含まれない賃金項目もあるため、判断に迷う場合は最寄りの労働基準監督署や社会保険労務士に確認するとよいでしょう。
助成金の活用も検討する
賃金の引き上げに伴う負担を軽減するため、生産性向上のための設備投資などとあわせて賃上げを行う中小企業・小規模事業者向けに、業務改善助成金などの支援制度が用意されている場合があります。助成金の内容や要件は年度によって変更されることがあるため、最新の情報は厚生労働省や労働局のホームページで確認してください。
就業規則・雇用契約書の記載も見直す
給与額を就業規則や雇用契約書に具体的な金額で明記している場合は、改定後の金額に合わせて見直しが必要になることがあります。特にパート・アルバイトの雇用契約書は、更新のタイミングで最低賃金額を下回っていないか、あわせて確認しておくと安心です。
特定最低賃金にも注意する
一部の産業ではより高い金額が定められている場合がある
地域別最低賃金とは別に、特定の産業について設定される「特定最低賃金」が存在する都道府県・業種もあります。特定最低賃金が定められている産業では、地域別最低賃金よりも高い金額が最低賃金額として適用されるため、該当する業種の事業者は、地域別最低賃金だけでなく特定最低賃金の改定内容もあわせて確認しておく必要があります。自社の業種に特定最低賃金が適用されるかどうかは、都道府県労働局のホームページで確認できます。
「年収の壁」との関係にも留意する
最低賃金の引き上げは、時給で働くパート・アルバイトの方にとって、同じ労働時間でも年間の収入額が増えることを意味します。年間の収入が一定額を超えると税金や社会保険料の負担が生じる、いわゆる「年収の壁」を意識して就業調整をしている方も多いため、最低賃金の引き上げ後は、従業員の働き方の希望や必要な労働時間についても改めて確認しておくとよいでしょう。年収の壁に関する制度自体は最低賃金の改定と別の枠組みで見直しが進められているため、両方の動向をあわせて把握しておくことが望まれます。
よくある疑問
最低賃金はすべての都道府県で同じ日に発効するのか
いいえ、発効日は都道府県ごとに個別に公示されます。例年10月1日から10月中旬にかけて、都道府県によって異なる日付で順次発効する傾向がありますが、正式な発効日は各都道府県労働局が発表する内容で確認する必要があります。
経過措置や猶予期間はあるのか
最低賃金の引き上げ自体に、事業者向けの猶予期間が設けられることは基本的にありません。発効日以降は、規模の小さい事業者であっても改定後の最低賃金額以上の賃金を支払う義務があります。負担を軽減するための支援策としては、業務改善助成金などの制度が用意されている場合があるため、必要に応じて活用を検討するとよいでしょう。
まとめ
令和8年度の最低賃金は、中央最低賃金審議会の目安によると全国加重平均で1,176円程度への引き上げが見込まれており、例年どおり10月を中心に都道府県ごとに発効する見通しです。ただし、最終的な金額は各都道府県の審議を経て決定されるため、目安の段階で断定せず、厚生労働省や都道府県労働局が公表する確定情報を必ず確認することが大切です。企業としては、改定額が正式に決まり次第、自社の給与水準の確認、月給制・日給制従業員の時給換算、就業規則や雇用契約書の見直しなどを早めに済ませ、10月の改定にスムーズに対応できるよう準備を進めておきましょう。

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