行政書士として開業を目指す方や、すでに実務に携わっている方の中には、「特定行政書士」という言葉を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。特定行政書士は、行政書士とは別の国家資格ではなく、一定の研修を修了した行政書士に与えられる称号です。本記事では、特定行政書士とは何か、通常の行政書士とできる業務がどう違うのか、そして特定行政書士になるための法定研修・考査の内容を解説します。
特定行政書士とは
特定行政書士とは、日本行政書士会連合会が実施する「特定行政書士法定研修」の課程を修了し、考査に合格した行政書士のことです。新たに国家試験に合格する必要はなく、すでに行政書士登録をしている人が、追加の研修・考査を経ることで名乗ることができます。制度は2014年の行政書士法改正により創設されました。
通常の行政書士との業務範囲の違い
通常の行政書士は、官公署に提出する許認可等の申請書類の作成やその代理提出を主な業務としますが、自分が作成に関与した書類について、その申請が不許可になった場合の不服申立て(行政不服審査法にもとづく審査請求など)を代理することはできません。特定行政書士になると、この不服申立て手続きの代理を行えるようになります。つまり、許認可の申請書類作成から、万が一不許可になった場合の不服申立てまで、一貫して対応できるようになる点が最大の違いです。
法定研修の内容
| 項目 | 内容 |
| 講義時間 | 18時間(行政法総論、行政不服審査制度概説、行政事件訴訟法、要件事実論など複数科目) |
| 受講形式 | eラーニング形式による自学習が中心 |
| 考査時間 | 2時間 |
| 考査形式 | マークシートによる30問択一式 |
研修は例年、春から夏にかけて申込みを受け付け、講義・考査を経て、その年の後半に合格発表・登録という流れになります。申込みから登録まで数ヶ月にわたるスケジュールになるため、開業初年度から特定行政書士としての業務を見据えている場合は、早めに申込み時期を確認しておくとよいでしょう。
考査の難易度
考査の合格点はおおむね6割程度とされ、例年の合格率は60%台で推移しているとされています。行政書士試験そのものと比べれば取り組みやすい水準ですが、講義内容が行政法の専門的な分野(行政不服審査制度、行政事件訴訟法など)に及ぶため、実務で行政法にあまり触れてこなかった方は、一定の学習時間を確保しておく必要があります。
費用と申込み時期の目安
受講料はテキスト代を含めて8万円程度とされています。過去に受講したものの考査が不合格だった場合、一定期間内(3年以内など)の再受講には減免措置が設けられていることが一般的です。申込み時期は例年4月下旬から6月中旬ごろとされていますが、年度によって変更される可能性があるため、日本行政書士会連合会や所属する都道府県行政書士会の最新の案内を必ず確認してください。
特定行政書士を目指すメリット
特定行政書士の認定を受ける最大のメリットは、許認可申請から不服申立てまでを一貫して自分で対応できるようになる点です。許認可申請の代理業務では、審査の結果として不許可処分が出ることも一定数あります。通常の行政書士のままでは、不許可になった案件について依頼者が不服申立てをしたい場合、弁護士に依頼し直してもらう必要がありますが、特定行政書士であればそのまま代理を続けられます。依頼者にとっては窓口が一本化されるメリットがあり、行政書士にとっても業務範囲の拡大による差別化につながります。建設業許可や産業廃棄物処理業許可など、不許可のリスクがある許認可分野を専門にする行政書士ほど、特定行政書士の資格を取得する意義が大きいといえます。
取得を検討する際の考え方
特定行政書士の取得は行政書士試験合格後すぐに検討する人もいれば、開業して数年、扱う許認可分野が固まってきた段階で検討する人もいます。研修・考査自体は行政書士登録さえしていれば受講でき、実務経験年数の要件はありません。ただし、講義内容が行政法の専門知識に及ぶため、実務である程度許認可申請に携わってから受講したほうが、内容を実務に結びつけて理解しやすいという声もあります。自分が扱う予定の業務分野で不服申立てが発生しうるかどうかを見極めたうえで、取得のタイミングを検討するとよいでしょう。
他の隣接資格との業務範囲の違い
不服申立ての代理というと弁護士の業務を思い浮かべる方も多いかもしれません。弁護士はあらゆる法律事務について不服申立てを含む代理ができますが、特定行政書士が代理できるのは、行政書士自身が作成に関与できる書類にかかる許認可等の申請について、不許可等の処分がされた場合の不服申立てに限られます。税務に関する不服申立て(再調査の請求など)は税務代理権を持つ税理士が行えますし、労働・社会保険に関する個別労働紛争のあっせん代理は、追加の試験に合格した「特定社会保険労務士」が担うというように、隣接士業でも「基本資格+追加の研修・試験で業務範囲が広がる」という構造は共通しています。自分の専門分野に応じて、どの資格の業務範囲でカバーできるのかを正しく理解しておくことが大切です。
よくある質問
Q. 行政書士試験に合格すれば自動的に特定行政書士になれるのか。
A. なれません。特定行政書士になるには、行政書士登録をしたうえで、別途「特定行政書士法定研修」を受講し、考査に合格する必要があります。
Q. 特定行政書士になると、どんな案件を扱えるようになるのか。
A. 代表的な例は、許認可申請が不許可になった場合の審査請求(行政不服審査法にもとづく不服申立て)の代理です。建設業許可や在留資格(ビザ)関連など、行政書士が申請書類の作成に関与できる分野で、不許可処分を受けた依頼者の不服申立てを代理できるようになります。
Q. 考査に落ちた場合、来年また受け直せるか。
A. 再受講・再受験は可能とされています。一定期間内の再受講には受講料の減免措置が設けられていることが多いため、詳細は日本行政書士会連合会の案内で確認してください。
まとめ
特定行政書士は、行政書士とは別の資格試験ではなく、法定研修と考査を経て認定される称号であり、不服申立て手続きの代理という独自の業務範囲が加わる点が最大の特徴です。2026年1月に施行された行政書士法改正では、特定行政書士が代理できる業務範囲がさらに拡大される方向で見直されました。改正の詳しい内容については、別記事「2026年1月施行の改正行政書士法とは?試験・実務への影響をわかりやすく解説」もあわせてご覧ください。

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