毎年秋になると多くの企業で準備が始まる年末調整ですが、令和8年分(2026年)は、税制改正の影響により例年以上に押さえておくべきポイントが多い年といえます。令和7年度税制改正で基礎控除等の見直しが行われたことに続き、令和7年12月26日に閣議決定された令和8年度税制改正の大綱では、物価上昇に連動して基礎控除等をさらに引き上げる新たな仕組みが盛り込まれました。本記事では、令和8年分の年末調整における主な変更点と、実務上の注意点についてわかりやすく解説します。なお、税制改正の詳細な適用条件は今後の政省令等で明確化される部分もあるため、実際の実務にあたっては国税庁が公表する最新の情報を必ず確認してください。
令和7年度改正からの変更点をおさらいする(令和8年分にも引き続き適用)
基礎控除・給与所得控除の引き上げ
令和7年度税制改正により、所得税の基礎控除および給与所得控除の見直しが行われ、いわゆる「103万円の壁」が実質的に引き上げられました。給与収入のみの方の場合、所得税がかからなくなる年収の目安が、改正前と比べて引き上げられたとされています。この改正の効果は令和7年分の所得税から適用されており、令和8年分の年末調整においても、この見直し後の控除の仕組みが基礎として用いられることになります。
特定親族特別控除の創設
あわせて、19歳以上23歳未満の親族(特定親族)を扶養している場合を対象とした「特定親族特別控除」が新たに設けられました。これまで、いわゆる大学生年代の子どもがアルバイトで一定額以上の収入を得ると、扶養控除の対象から急に外れて世帯全体の税負担が大きく増えてしまうという問題が指摘されてきましたが、特定親族特別控除により、親族本人の所得金額に応じて控除額が段階的に変化する仕組みが導入され、影響が緩和されています。
令和8年度税制改正で新たに加わる変更点
物価上昇に連動した基礎控除の引き上げ
令和7年12月26日に閣議決定された令和8年度税制改正の大綱では、2年ごとに物価動向を踏まえて基礎控除等を見直す新たな仕組みが導入されることになりました。直近2年間の消費者物価指数の上昇率(およそ6%程度とされています)を踏まえ、基礎控除の本則額が58万円から62万円へ、給与所得控除の最低保障額が65万円から69万円へと、それぞれ4万円引き上げられる見込みです。
令和8年分・9年分限定の時限的な上乗せ措置
これに加えて、令和8年分・令和9年分の2年間に限った時限措置として、基礎控除の特例額が37万円から42万円へ引き上げられ、対象となる給与収入の上限も拡大される見込みとされています。時限措置であるため、令和10年分以降の取り扱いについては、改めて制度の動向を確認しておく必要がある点に留意しましょう。
変更が適用されるタイミング
これらの見直しは、令和8年分の年末調整から適用される見通しです。一方で、令和8年中に毎月支払われる給与に対する源泉徴収(月々の天引き額)については、当初は改正内容が反映されない見込みとされており、引き上げられた控除額の効果は、年末調整で一度にまとめて精算される形になると考えられます。このため、例年以上に還付額が大きくなる従業員が多くなる可能性がある点も、あらかじめ念頭に置いておくとよいでしょう。なお、時限措置と恒久措置が同じ年に重なって適用されることになるため、控除額の内訳が複雑に感じられるかもしれません。実務上は、国税庁が例年秋頃に公表する年末調整関係のパンフレットや計算方法の解説資料を確認しながら、正確な控除額を計算することが望ましいといえます。
実務上の注意点
従業員への周知と申告書の記載内容の確認
基礎控除や特定親族特別控除の要件が変わることで、従業員自身が記入する「給与所得者の基礎控除申告書」や「給与所得者の扶養控除等申告書」の記載内容にも影響が及ぶ可能性があります。労務・経理担当者は、変更内容を早めに従業員へ周知するとともに、申告書の様式や記載方法に変更がないか、国税庁が公表する最新の申告書様式・記載要領を確認しておくことが大切です。特に、大学生年代の子どもがいる従業員については、特定親族特別控除の対象となるかどうかを丁寧に案内するとよいでしょう。控除額の計算が複雑になる従業員については、個別に相談を受け付ける体制を整えておくと、記載ミスや問い合わせの集中を防ぎやすくなります。
給与計算システムの対応状況を確認する
年末調整の計算は、多くの企業で給与計算ソフトやクラウドサービスを利用して行われています。税制改正に伴い、控除額の計算ロジックなどがアップデートされる必要があるため、利用しているシステムが令和8年分の税制改正に対応しているか、提供元からのアナウンスを確認しておきましょう。対応時期がシステムによって異なる場合もあるため、年末調整の実施スケジュールに影響が出ないよう、早めに確認しておくことが望ましいといえます。
あわせて知っておきたい関連制度との違い
住民税への反映時期のずれ
所得税は年末調整によってその年のうちに精算されますが、住民税は前年の所得をもとに翌年度分が計算される仕組みになっています。そのため、令和8年分の所得税で基礎控除等の引き上げが適用されても、住民税への反映は令和9年度分からとなり、所得税と住民税とでは制度が適用されるタイミングにずれが生じます。従業員から住民税の金額について問い合わせを受けた際は、このタイムラグについても説明できるようにしておくとよいでしょう。
社会保険の「年収の壁」とは別の制度である点に注意
年末調整の基礎控除・扶養控除の見直しは、あくまで所得税・住民税に関する税制上の変更です。これとは別に、社会保険(厚生年金・健康保険)の加入要件に関する、いわゆる「106万円の壁」についても、2026年10月に賃金要件が撤廃される制度改正が予定されています。税制上の控除の話と、社会保険の加入要件の話は、根拠となる制度がまったく異なるため、従業員への説明にあたっては、両者を混同しないよう整理して伝えることが大切です。年末調整の時期と社会保険制度の変更時期が近いこともあり、従業員から双方の制度について同時に質問を受けることも想定されるため、あらかじめ社内向けのQ&Aなどを準備しておくと、問い合わせ対応がスムーズになるでしょう。
まとめ
令和8年分の年末調整では、令和7年度改正による基礎控除等の見直しに加え、令和8年度税制改正による物価連動の追加引き上げや時限的な上乗せ措置など、多くの給与所得者に関わる変更が重なって適用される見通しです。変更の効果は年末調整でまとめて精算される見込みであるため、例年よりも従業員への影響や還付額の変化が大きくなる可能性があります。労務・経理担当者は、申告書の記載内容やシステムの対応状況を早めに確認し、余裕を持って年末調整の準備を進めていきましょう。詳細な制度内容については、国税庁が公表する最新の情報を必ずご確認ください。

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