結論として、ハラスメント相談記録の整理に生成AIを使うこと自体が一律に禁止されているわけではないが、相談記録には相談者・行為者双方の極めて機微な個人情報が含まれるため、外部の生成AIサービスへの入力範囲や、二次被害を防ぐための表現の配慮について、通常の業務以上に慎重な運用が求められる。
ハラスメント相談記録に生成AIを使う場面
ハラスメント相談窓口の担当者は、相談者からの聞き取り内容を記録し、時系列を整理したうえで、対応方針の検討や報告書の作成につなげる必要がある。こうした記録の要約や時系列整理、報告書のたたき台作成といった作業に生成AIを活用し、担当者の負担を軽減しようとする動きがみられる。
情報管理面で注意すべきリスク
機微な個人情報が外部サービスに送信されるリスク
ハラスメント相談記録には、相談者・行為者の氏名や所属、具体的なやり取りの内容など、極めて機微な個人情報が含まれる。これらの情報を外部の生成AIサービスにそのまま入力すると、意図せず情報が外部に送信・保存される可能性がある。人事労務分野での生成AI活用全般について、個人情報保護の観点からのリスクが社労士等から指摘されており、ハラスメント相談記録はその中でも特に慎重な取り扱いが必要な情報だといえる。
匿名化とアクセス権限の管理
生成AIに整理を依頼する場合でも、氏名や所属部署など個人が特定される情報はできる限り匿名化・記号化したうえで入力することが望ましい。また、整理された記録や生成AIとのやり取り履歴に誰がアクセスできるかを限定し、相談内容が関係者以外に漏れない体制を整えておくことも欠かせない。
二次被害防止の観点から注意すべきリスク
相談者・行為者が特定される表現のリスク
生成AIが記録を要約する過程で、当事者が特定されやすい具体的な表現がそのまま残ってしまうことがある。整理後の記録が社内で共有される際に、相談者や行為者が誰であるか推測できてしまうと、相談者が周囲から詮索されるといった二次被害につながりかねない。要約結果を担当者が必ず確認し、不要に具体的な表現を残していないか見直す必要がある。
相談内容の要約による意図せぬニュアンスの変化
生成AIによる要約は、相談者が語った微妙なニュアンスや心情を単純化してしまうことがある。相談者が伝えたかった内容と、AIが要約した内容にずれが生じると、対応方針の検討を誤ったり、相談者が「自分の話が正しく伝わっていない」と感じ、相談窓口への不信感につながるおそれがある。要約はあくまでたたき台とし、担当者が原文と照らし合わせて確認する運用が望ましい。
ハラスメント相談記録を生成AIで整理する際のチェックポイント
| 確認項目 | 内容 |
| 入力情報の範囲 | 氏名や所属など個人が特定される情報は匿名化・記号化してから入力する |
| 利用するAIサービス | 入力データを学習に利用しない設定か、法人向け契約かを確認する |
| 要約結果の確認 | AIが生成した要約を担当者が原文と照合し、ニュアンスのずれがないか確認する |
| アクセス権限 | 整理後の記録やAIとのやり取り履歴へのアクセスを関係者に限定する |
相談記録整理に生成AIを使う具体例
たとえば、複数回にわたる相談内容を生成AIに時系列で整理させた場合、初回相談時の重要な発言が要約の過程で省略されてしまうことがある。対応方針を検討する担当者がその省略に気づかないまま報告書を作成すると、行為者への聞き取り内容と食い違いが生じ、事案の全体像を見誤るおそれがある。整理後の記録は、必ず担当者が原文と照らし合わせて確認する必要がある。
相談窓口担当者への教育
生成AIを使う担当者自身が、機微な個人情報の取り扱いや二次被害防止の考え方を理解していなければ、便利なツールもリスクの原因になりかねない。相談記録の整理に生成AIを使う前提として、担当者向けの研修や、入力可否の判断基準についての教育を行っておくことが望ましい。
労務相談窓口全体での生成AI活用との関係
ハラスメント相談記録の整理だけでなく、労務相談窓口の一次対応そのものに生成AIチャットボットを導入する動きもみられる。窓口対応全体に生成AIを取り入れる際の注意点については、別記事「労務相談窓口の一次対応に生成AIチャットボットを使う際の注意点」でも整理しているので、あわせて確認してほしい。
よくある質問
Q. ハラスメント相談記録を生成AIに入力すること自体は違法か。
相談記録を生成AIに入力すること自体を一律に禁止する法令があるわけではない。ただし、相談記録に含まれる個人情報の取り扱いについては、個人情報保護の観点からの配慮が求められ、入力する情報の範囲や利用するAIサービスの設定によっては、社内規程や委託先との契約に抵触する可能性もあるため、事前に確認しておく必要がある。
Q. 相談者の氏名を伏せれば生成AIに入力しても問題ないか。
氏名を伏せるだけでは十分な対策とはいえない場合がある。所属部署や具体的な業務内容、やり取りの詳細な状況などから、当事者が推測できてしまうことがあるためである。氏名だけでなく、個人が特定され得る情報全体を見直したうえで、必要最小限の情報にとどめて入力することが望ましい。
Q. 相談記録の要約を生成AIに任せると、相談者への配慮が欠けることはあるか。
生成AIによる要約は、相談者が伝えたかった心情や微妙なニュアンスを十分にくみ取れない場合がある。要約結果をそのまま報告書として使うのではなく、担当者が相談者の話した内容と照らし合わせて確認し、必要に応じて表現を調整することで、相談者への配慮を保つことができる。
まとめ
ハラスメント相談記録の整理に生成AIを活用することは、担当者の負担軽減につながる一方、極めて機微な個人情報を扱う業務であるため、情報管理と二次被害防止の両面で通常以上に慎重な運用が求められる。入力する情報の匿名化、要約結果の確認、アクセス権限の管理といった基本的なチェックポイントを押さえたうえで、生成AIはあくまで担当者の作業を補助する位置づけにとどめることが重要である。

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