結論として、生成AIが普及しても会計士・税理士という専門資格そのものが不要になるわけではない。むしろ、定型的な入力作業や資料整理を生成AIに任せられるようになった今こそ、AIの出力を検証する力、顧客に分かりやすく説明する力、専門的な判断力といった、人にしかできないスキルの重要性が増している。
生成AIが代替しやすい業務・しにくい業務
代替が進みやすい定型業務
freeeやマネーフォワードなどの会計ソフトには、AI-OCRによる請求書・領収書の読み取りや自動仕訳提案、決算書分析の下書き作成といった機能が搭載されつつある。こうした定型的なデータ入力や一次的な資料整理は、生成AIによる自動化が今後さらに進む領域だと考えられる。
人にしかできない判断業務
一方で、税務上の判断や監査意見の形成、顧客の経営状況を踏まえた助言といった業務は、専門的な知識と経験に基づく判断が不可欠であり、生成AIが単独で担うことは難しい。生成AIはあくまで判断を助ける材料を提供する存在であり、最終的な結論を下す役割は引き続き会計士・税理士に残ると考えられる。
磨くべきスキル1 生成AIの出力を検証するリテラシー
生成AIは事実と異なる内容をもっともらしく出力する「ハルシネーション」を起こすことがある。税務や会計の数値、法令の解釈などをAIに確認させた場合も、その内容を国税庁や金融庁などの一次情報と照らし合わせて検証する姿勢が欠かせない。AIの出力を鵜呑みにせず、誤りに気づける専門知識を持ち続けることが、今後ますます重要なスキルになる。
磨くべきスキル2 顧客に分かりやすく伝えるコミュニケーション力
決算書分析や資金繰り表の作成といった業務では、生成AIが数値の整理や下書き作成を補助できるようになってきている。しかし、その内容を経営者にとって理解しやすい言葉で説明し、経営判断につなげる役割は人にしか担えない。AIが出した分析結果をそのまま伝えるのではなく、顧客の状況に合わせて咀嚼して伝える力が、専門家としての価値を左右する。
磨くべきスキル3 生成AIツールを使いこなす力
ChatGPT・Claude・Geminiなど、業務に活用できる生成AIツールは複数存在し、それぞれ得意分野や特徴が異なるとされる。どのツールをどの業務に使うかを見極め、使い分けられる知識も、今後の実務では欠かせないスキルの一つになっていくと考えられる。ツールの選び方については、別記事「士業事務所が生成AIツールを選ぶときの比較ポイント―ChatGPT・Claude・Geminiの違い」でも整理しているので、あわせて参考にしてほしい。
生成AI時代のスキルアップに向けた具体的な取り組み
小さな業務から試して感覚をつかむ
いきなり判断業務に生成AIを使うのではなく、議事録の下書きや案内文書の作成など、影響範囲が限定的な業務から試してみることが第一歩になる。生成AIがどのような場面で強みを発揮し、どこで誤りやすいかを実際に体感することで、業務全体にどう組み込むべきかの判断がしやすくなる。
事務所内でノウハウを共有する仕組みをつくる
ある担当者が見つけた効果的な使い方の工夫や、生成AIが誤りやすいパターンをそのままにせず、事務所内で共有する仕組みを整えることも重要である。個人の経験にとどめず、組織全体でAI活用のノウハウを蓄積していくことが、事務所全体の生産性向上につながる。
| スキル | 身につけ方の例 |
| 出力を検証する力 | 国税庁や金融庁等の一次情報と照らし合わせて確認する習慣をつける |
| 説明する力 | 決算書分析の結果を経営者向けの言葉に言い換える練習をする |
| ツール活用力 | 議事録作成やメール下書きなど身近な業務からAIツールを試す |
磨くべきスキル4 専門的判断力と職業的懐疑心
生成AIがどれだけ高度化しても、税務判断や監査意見の形成といった責任を伴う結論を下す役割は会計士・税理士に残る。AIの提案を鵜呑みにせず、根拠を確認したうえで自分の判断として結論を出す職業的懐疑心は、生成AI時代においてむしろ価値が高まるスキルだといえる。
よくある質問
Q. 生成AIが普及すると会計士・税理士の資格自体が不要になるか。
現状の生成AI活用の広がり方を見る限り、定型業務の自動化が進む一方で、税務判断や監査意見の形成といった専門的な結論を下す役割は人に残っている。資格そのものが不要になるというより、資格を持つ専門家に求められる仕事の内容が、入力作業から判断・説明業務へとシフトしていくと考えられる。
Q. どの生成AIツールから使い始めればよいか。
特定のツールを万能とみなすのではなく、自分が普段担当している業務内容に合わせて選ぶことが基本になる。文章の下書きや議事録作成であればMicrosoft 365 Copilotのような業務ソフト統合型のツール、幅広い調べものや文章生成であればChatGPTやClaude、Geminiなど汎用的な生成AIを試してみるところから始めるとよい。
Q. AIに詳しくない世代の会計士・税理士はどうすればよいか。
生成AIを使いこなすスキルは、若い世代だけに求められるものではない。まずは議事録の下書きやメール文面の作成など、リスクの低い業務から少しずつ試し、AIの得意・不得意を体感することが第一歩になる。専門的な判断力や顧客対応力といった、これまで培ってきた経験は、生成AI時代でも変わらず強みになる。
まとめ
生成AIの普及によって定型業務の自動化が進む一方、税務や会計の専門判断、顧客への分かりやすい説明、AIの出力を検証するリテラシーといったスキルの重要性はむしろ高まっている。会計士・税理士がAIに代替されないためには、AIを敵視するのではなく、周辺業務を任せながら自らは判断業務と顧客対応に軸足を移していく姿勢が求められる。

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