結論から言えば、大手監査法人では生成AIの導入が進んでいるものの、その活用範囲は監査業務の周辺領域にとどまっており、監査意見の形成という監査の核心部分は依然として公認会計士自身が担っている。生成AIが監査調書の作成支援や資料整理を効率化する一方、最終的な判断の主体は人であるという構図は、2026年時点でも大きく変わっていない。
大手監査法人が生成AIを取り入れている業務
会計事務所や監査法人向けにMicrosoft 365 Copilotのような生成AIツールを導入した事例が複数報告されている。ミロク情報サービスやKDDI、NTTドコモビジネスなどが公表している事例では、議事録の作成、メールの下書き、Excelデータの整理といった、監査業務を支える周辺業務での活用が中心となっている。監査調書そのものを生成AIに作成させるのではなく、資料準備や情報整理にかかる時間を圧縮することで、監査チームがより多くの時間を判断業務に振り向けられるようにする、という位置づけである。
異常検知・データ分析での活用
取引データの量が膨大になる大企業の監査では、生成AIを用いた異常値の検知や傾向分析を試験的に取り入れる動きもみられる。ただし、AIが抽出した異常値や傾向はあくまで「気づきのきっかけ」であり、それが実際に不正や誤りを示すものかどうかの判断は、監査手続を通じて公認会計士が確認する必要がある。
他の会計分野の動向との共通点
経理分野全体を見ても、freeeやマネーフォワードなどの会計ソフトがAI-OCRによる請求書読み取りや自動仕訳提案、資金繰り表作成の下書きといった機能を強化しており、定型的な処理から生成AIの活用が広がっている点は監査分野と共通している。マネーフォワードは自律的にバックオフィス業務を処理する新サービスの提供も予定していると発表しているが、こうした分野でも、最終的な数値の妥当性確認や判断は専門家が担うという整理は変わっていない。
| 業務区分 | 具体例 |
| 生成AIが代替しやすい周辺業務 | 議事録作成、メールの下書き、Excelデータの整理、資料のたたき台作成 |
| 公認会計士が引き続き担う判断業務 | 異常値の要因分析、監査手続の設計、監査意見の形成 |
監査意見の形成は公認会計士が担う
監査の目的は、財務諸表が適正に表示されているかどうかについて、監査人が意見を表明することにある。この監査意見の形成には、専門的な判断や職業的懐疑心が不可欠であり、生成AIに委ねることはできない。生成AIが提示する分析結果や下書きは、あくまで公認会計士の判断を補助する材料の一つにすぎない点を、監査法人・会計事務所ともに強調している。
日本公認会計士協会の考え方
日本公認会計士協会は、生成AIと公認会計士業務の関係を整理する特設ページを設けており、AI活用が広がるなかでも会計士としての専門的判断の重要性を確認する情報発信を行っている。監査業務に生成AIを取り入れる際は、こうした職業団体が示す考え方や、各監査法人が定める利用ルールを踏まえたうえで、業務プロセスに組み込んでいくことが求められる。
監査現場で注意すべきポイント
ハルシネーションと情報管理のリスク
生成AIは事実と異なる内容をもっともらしく出力する「ハルシネーション」を起こす可能性がある。監査調書の下書きやデータ分析の結果についても、生成AIが出力した内容をそのまま採用せず、必ず一次資料と突き合わせて確認する体制が欠かせない。また、監査先の会社の未公表情報や機密情報を外部の生成AIサービスに入力しないよう、利用範囲を組織として定めておくことも重要である。
中小規模の会計事務所での位置づけ
生成AI活用の事例として紹介されているのは大手監査法人が中心だが、考え方自体は中小規模の会計事務所にも応用できる。議事録作成やメールの下書き、資料整理といった周辺業務から着手し、判断を伴う部分は従来どおり専門家が行うという役割分担を明確にすることが、規模を問わず実務に導入する際の基本になる。
よくある質問
Q. 監査業務に生成AIを使うと監査の信頼性は下がるか。
生成AIの活用そのものが監査の信頼性を下げるわけではない。むしろ、資料整理やデータ分析にかかる時間を圧縮できれば、公認会計士が判断業務により多くの時間を割けるようになる面もある。重要なのは、生成AIの出力を鵜呑みにせず、専門家による確認プロセスを維持することであり、その体制が保たれている限り、信頼性の低下には直結しないと考えられる。
Q. 中小の監査法人や会計事務所でも同様の活用は進んでいるか。
現時点で公表されている事例の多くは大手監査法人によるものだが、Microsoft 365 Copilotのような汎用的な生成AIツールは中小規模の会計事務所でも導入が可能である。議事録作成やメール下書きなど、監査業務そのものではない周辺業務から取り入れることで、規模の小さい事務所でも段階的に活用を広げていくことができると考えられる。
Q. 生成AIの活用によって公認会計士の仕事はなくなるか。
現状の活用範囲を見る限り、生成AIが監査意見の形成そのものを代替する段階には至っていない。むしろ、定型的な資料作成やデータ整理を生成AIに任せることで、公認会計士は専門的な判断や監査先企業とのコミュニケーションといった、人にしかできない業務に注力しやすくなる方向に進んでいると考えられる。
まとめ
大手監査法人における生成AI活用は、議事録作成やデータ整理といった周辺業務から着実に広がっている一方、監査意見の形成という核心的な判断は引き続き公認会計士が担っている。監査業務に生成AIを取り入れる際は、日本公認会計士協会の考え方や各監査法人のルールを踏まえたうえで、ハルシネーションや情報漏洩のリスクに配慮しながら、判断業務と定型業務の役割分担を明確にしていくことが重要である。最新の活用状況については、各監査法人や日本公認会計士協会の公式情報で確認してほしい。

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