弁理士事務所において生成AIを業務に取り入れること自体は、議事録作成や資料整理などの効率化に役立つ手段として広がりつつある。ただし、出願前の発明内容など機密性の高い情報を外部の生成AIサービスに入力する場合には、情報が事務所の管理外に流出するリスクを踏まえたうえで、利用範囲や運用ルールをあらかじめ整理しておくことが欠かせない。
特許事務所で生成AI活用が広がっている背景
特許明細書の作成支援や外国語文献の要約、議事録の下書き作成など、周辺業務での生成AI活用は複数の専門家によって紹介されている。特許明細書作成に生成AIを用いる際の注意事項として、新規性や権利範囲の記載精度、秘密情報の外部送信リスクなどが繰り返し指摘されている点は押さえておきたい。
こうした指摘に共通しているのは、生成AIはあくまで下書き作成や情報整理を補助する位置づけであり、最終的な新規性判断や権利範囲の記載内容の確認は、弁理士自身の専門知識に基づいて行う必要があるという点である。生成AIの出力をそのまま出願書類として提出することは避け、必ず専門家によるチェックを経る運用が前提になる。
情報管理で押さえておきたい注意点
未公開の発明情報を安易に入力しない
出願前の発明内容は、新規性が失われると特許を受けられなくなる可能性がある機微な情報である。外部の生成AIサービスに入力した内容が、サービス提供者側のログやサーバーに保存される可能性がある以上、公開範囲が不透明なツールへの入力は避けるべきだと指摘されている。クライアントから預かった発明情報についても、同様の慎重さが求められる。
利用するAIサービスの規約・学習データ設定を確認する
入力した内容が生成AIの学習データとして利用されるかどうかは、サービスごとに規約や設定が異なる。契約前に利用規約を確認し、学習利用をオプトアウトできる設定があるか、法人向けプランでは入力データの取り扱いがどう定められているかを確認しておくことが望ましいとされる。無料の一般公開型サービスは取り扱いが不透明な場合があるため、特に注意が必要である。
事務所内でルールを明文化しておく
誰が、どの業務で、どの生成AIサービスを、どの範囲の情報まで使ってよいかを事務所内であらかじめ明文化しておくことも重要な対策の一つである。担当者の判断に委ねたままにすると、情報管理の水準が担当者ごとにばらついてしまう可能性がある。
| 確認場面 | チェックの視点 |
| 発明情報の入力前 | 出願前の未公開情報を含んでいないか、匿名化・抽象化できないか |
| ツール選定時 | 学習データへの利用有無、オプトアウト設定、法人向けプランの有無 |
| 出力の利用時 | 新規性・権利範囲の記載精度を弁理士自身が確認したか |
生成AIを安全に活用するための進め方
公開情報を扱う業務から試す
商標の先行調査における公開情報の要約や、公開されている判例・審決例の整理など、もともと公開されている情報を扱う業務から生成AIの活用を始めると、情報漏洩のリスクを抑えながら効果を検証しやすい。出願前の発明情報のように機微な情報を扱う業務への適用は、こうした検証を経たうえで、入力方法や確認体制を整えてから慎重に範囲を広げていくことが望ましい。
利用状況を事務所内で共有し、継続的に見直す
生成AIを使った業務でどのような効果があったか、逆にどのような場面で誤りや不自然な出力が生じやすいかを事務所内で共有しておくと、他の担当者が同じ失敗を繰り返すことを防ぎやすくなる。生成AIサービス側の規約や機能は随時更新されるため、一度定めたルールを固定的に運用するのではなく、定期的に見直し、必要に応じて利用範囲や確認体制をアップデートしていく姿勢が求められる。
クライアントへの説明も丁寧に行う
生成AIを業務に取り入れていること自体を隠す必要はないが、どのような場面でどの範囲の情報を扱うのかをクライアントに説明できるようにしておくと、信頼関係の維持につながる。特に機密性の高い発明情報を扱う打ち合わせの前後では、情報管理の方針について確認しておくと安心感を持ってもらいやすい。
よくある質問
Q.生成AIに発明のアイデアを入力すると、秘密保持義務との関係で問題になるか。
弁理士には業務上知り得た秘密を守る立場が求められるとされており、外部の生成AIサービスへの入力によって情報が事務所の管理外に出る可能性がある場合には、慎重な判断が必要になる。特に無料の一般公開型サービスは入力内容の取り扱いが不透明なケースがあるため、契約前に利用規約や学習データの扱いを確認することが推奨される。
Q.クライアントの同意を得れば生成AIに発明情報を入力してよいか。
クライアントへの説明と同意取得は望ましい対応の一つだが、それだけで情報管理上のリスクがすべて解消するわけではないとされる。同意を得た場合でも、入力する情報の範囲を必要最小限にとどめる、学習データとして利用されない設定のツールを選ぶといった技術的な対策とあわせて運用することが望ましい。
Q.生成AIが作成した明細書の下書きをそのまま出願書類として使ってよいか。
生成AIが作成する文章はあくまで下書きの一つであり、新規性や権利範囲の記載精度については弁理士自身が確認・修正する必要があるとされる。生成AIの出力に事実と異なる記載や不正確な表現が含まれる可能性もあるため、最終的な出願書類としての完成度は専門家の確認を経て担保することが前提になる。
まとめ
弁理士事務所における生成AI活用は、周辺業務の効率化という点では有効な手段になり得る一方、出願前の発明情報という機密性の高い情報を扱う業務である以上、情報管理の観点からの慎重な運用設計が欠かせない。入力する情報の範囲、利用するサービスの規約、事務所内のルール整備といった点を一つずつ確認しながら、生成AIを安全に活用できる体制を整えていくことが望ましい。

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