中小企業診断士の実務において、生成AIは経営診断の下調べや事業計画書のたたき台作成を支援するツールとして活用が広がっている。ただし、診断先企業の実態を踏まえた最終的な分析や提言は、診断士自身の経験と現地調査に基づいて行う必要があり、生成AIの出力をそのまま提出資料とすることは避けるべきである。
中小企業診断士の実務で生成AIが担える役割
中小企業診断士の実務では、経営診断や事業計画書作成に先立って、業界動向や競合の状況、財務指標の一般的な水準など、幅広い情報を整理する作業が発生する。生成AIは、こうした情報収集や整理の初期段階を効率化する手段として紹介されることが多い。
経営診断の下調べ・情報整理
経営診断ではSWOT分析や財務分析の枠組みに沿って情報を整理する場面が多いが、生成AIに業界の一般的な特徴や想定される強み・弱みの切り口を出させることで、診断士が現地でヒアリングすべき論点を事前に整理できるという活用例が紹介されている。あくまで論点整理の補助であり、実際の診断先の状況に当てはまるかどうかは現地確認が必要になる。
事業計画書のたたき台作成
事業計画書の作成においても、経営診断や事業計画書作成の補助として生成AIツールを使う動きが紹介されている。事業の概要や数値計画の説明文など、定型的な文章のたたき台を生成AIに作らせ、診断士が診断先企業の実情に合わせて加筆・修正するという使い方である。補助金申請に添付する事業計画書についても同様の考え方が当てはまるが、採択率を左右しかねない落とし穴もあるため、生成AIに任せきりにしない姿勢が重要になる。
補助金の採択に向けた事業計画書作成において生成AIの活用で生じやすい注意点は、補助金申請の事業計画書作成に生成AIを使う際の注意点―採択率を左右する落とし穴でも整理しているので、あわせて確認しておきたい。
実務での活用例
| 業務 | 生成AIの活用例 | 留意点 |
| 業界動向の下調べ | 一般的な業界特性や傾向の整理 | 最新性・診断先固有の実情は別途確認 |
| 財務分析の切り口整理 | 収益性・安全性など分析項目の洗い出し | 実際の数値評価は診断士が実施 |
| 事業計画書の文章たたき台 | 概要説明や数値計画の文章化 | 診断先の固有情報を反映して修正 |
| 提案書・報告書の構成整理 | 章立てや見出し構成の提案 | 内容の正確性は診断士が最終確認 |
活用イメージ(例)
例えば創業支援の相談を受けた場面を想定すると、まず診断士自身が依頼者からヒアリングした事業内容や経歴、想定する顧客層を整理する。そのうえで、業種に共通する一般的な留意点や、事業計画書に記載すべき項目の骨子を生成AIに提示させ、章立てのたたき台として利用するという進め方が一つの例として考えられる。資金計画や販路開拓の具体的な方針については、依頼者へのヒアリング内容と診断士自身の知見をもとに書き加え、生成AIの出力はあくまで骨子や論点整理として扱う位置づけにとどめることが実務上のポイントになる。
複数の診断士が関わる案件での使い方
商工会議所などが実施する経営相談の窓口業務や、複数の診断士でチームを組んで対応する案件では、担当者ごとに情報整理の粒度がばらつきやすいという課題がある。生成AIを使って調査項目や報告書の構成を一定のフォーマットにそろえることで、担当者間の情報共有や引き継ぎがしやすくなるという活用の仕方も考えられる。ただし、フォーマットをそろえること自体が目的化し、診断先ごとの個別性を軽視することのないよう注意したい。
活用にあたっての注意点
診断先の機密情報の取り扱い
中小企業診断士が扱う経営情報には、売上や取引先、資金繰りなど機密性の高い情報が含まれる。生成AIサービスに入力した情報が学習に利用される設定になっていないか、法人向けプランで情報が適切に管理されているかを確認したうえで利用することが望ましい。診断先の同意を得ずに固有情報を外部の生成AIサービスに入力することは避けるべきである。
診断士としての最終責任
経営診断や事業計画書は、診断先企業の経営判断に直結する資料である。生成AIが提示する分析や文章はあくまで一般的な傾向に基づくものであり、診断先固有の事情を踏まえた最終的な評価や提言については、中小企業診断士自身の専門的判断で行う必要がある。生成AIの出力を十分な検証なく採用すると、診断先の実態と乖離した提言になりかねない点に注意したい。
よくある質問
Q. 生成AIが作成した経営診断の文章をそのまま報告書に使ってよいか。
生成AIが作成した文章は一般的な情報に基づく下書きにとどまるため、そのまま報告書として提出することは避けたい。診断先企業の実情やヒアリング内容と照らし合わせ、数値や固有の状況を反映したうえで、診断士自身の言葉で最終的な内容を仕上げることが望ましい。
Q. 事業計画書の数値計画も生成AIに作らせてよいか。
数値計画の枠組みや説明文のたたき台を生成AIに作成させること自体は可能だが、売上見込みやコスト構造などの具体的な数値は、診断先企業の実際のデータに基づいて診断士が精査する必要がある。生成AIが出力した数値をそのまま採用すると、実態とかけ離れた計画になるおそれがある。
Q. 生成AIツールの選び方に決まった基準はあるか。
明確な基準が確立されているわけではないが、診断先の機密情報を扱う以上、情報の取り扱い方針や法人向けプランの有無、セキュリティ対策の内容を確認したうえで選ぶことが重要とされる。具体的な機能や料金は各サービスが随時更新しているため、利用前に公式サイトで最新情報を確認してほしい。
まとめ
中小企業診断士の実務における生成AI活用は、経営診断の下調べや事業計画書のたたき台作成といった補助的な場面で広がりつつある。一方で、診断先企業の実態を踏まえた最終的な分析・提言や、機密情報の取り扱いについては、引き続き診断士自身の専門的な判断と責任のもとで行う必要がある。生成AIを情報整理や文章作成の補助として位置づけ、最終的な品質は自らの目で確認する姿勢が実務では欠かせない。

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