毎年秋になると多くの企業で準備が始まる年末調整ですが、令和8年(2026年)分は例年と比べて変更点が多い年になる見込みです。基礎控除や給与所得控除の見直し、扶養親族等の所得要件の緩和など、いわゆる「年収の壁」に関わる税制改正が反映されるためです。この記事では、経理・労務の実務担当者の方に向けて、令和8年分の年末調整で押さえておきたいポイントを整理します。
なお、税制の詳細な金額や適用条件は、国税庁が公表する様式や通達によって確定するものであり、本記事は執筆時点(2026年8月)で判明している情報にもとづく目安です。実際の事務では、必ず国税庁の公式サイトで最新の様式・案内をご確認ください。
令和8年分の年末調整が「変更の多い年」といわれる理由
令和8年度の税制改正では、所得税の基礎控除と給与所得控除の見直しが行われ、いわゆる「103万円の壁」を実質的に引き上げる内容が盛り込まれました。物価上昇や働き方の多様化を踏まえ、給与収入がある一定額までは所得税がかからない範囲を広げる方向で制度が見直されています。あわせて、扶養親族等の所得要件も緩和されるため、扶養控除等申告書の記載内容や判定方法にも影響が及びます。
これらの改正は令和8年分(2026年1月から12月までの所得)の所得税から適用される一方、毎月の給与から天引きする源泉徴収税額表への反映は令和9年(2027年)1月以降とされており、2026年中は月々の源泉徴収額を大きく変えず、年末調整の際に1年分をまとめて精算する形になる見通しです。そのため、年末調整の場面で例年以上に大きな還付や追加徴収が生じる可能性があり、担当者としても仕組みを理解しておく必要があります。
基礎控除の引き上げ
基礎控除は、すべての納税者に一律に適用される所得控除です。令和8年度税制改正では、基礎控除の本則額が引き上げられるとともに、一定の所得水準以下の方には期間限定の上乗せ措置(特例加算)が設けられる見込みです。具体的な控除額は所得水準によって段階的に異なる仕組みとなっており、対象となる従業員ごとに適用額が変わる点に注意が必要です。
令和8年・9年分限定の上乗せ措置
報道等によれば、令和8年分・令和9年分については、合計所得金額が一定額以下の方を対象に、基礎控除に特例的な上乗せが行われる見込みとされています。上乗せの有無や金額は所得水準によって細かく区分されているため、給与計算ソフトの改修状況や国税庁が公表する早見表を確認しながら、対象者ごとに正確な控除額を適用することが求められます。
給与所得控除の見直し
給与所得控除は、給与収入から差し引かれる控除で、いわば給与所得者にとっての必要経費のような役割を果たしています。令和8年度改正では、給与所得控除の最低保障額が引き上げられる方向とされており、特に給与収入が比較的少ない層にとって、課税対象となる所得が減る(=税負担が軽くなる)効果が見込まれます。あわせて、今後は物価上昇率に連動して給与所得控除額を見直す仕組みが導入される予定である点も、これまでにはなかった特徴です。
これらの見直しの結果、基礎控除と給与所得控除を合わせた「課税最低限」、つまり所得税がかからない給与収入の上限の目安が、これまでより引き上げられる形になります。具体的な金額は所得水準や年度によって異なる場合があるため、「おおむね178万円程度まで引き上げられる」といった報道もありますが、正確な数値は国税庁の公式情報で確認することをおすすめします。
扶養親族等の所得要件の緩和
配偶者控除や扶養控除の対象となるかどうかを判定する際の「合計所得金額の要件」についても、緩和される見込みです。これまで基準とされてきた所得要件が引き上げられることで、パート収入がある配偶者や親族について、扶養控除等の対象となる範囲がこれまでより広がる可能性があります。扶養控除等申告書の記載や、配偶者控除等申告書の判定欄についても、様式が改訂される見込みのため、旧様式のまま処理してしまわないよう注意が必要です。
子育て世帯向けの控除の新設
あわせて、子育て世帯を対象とした生命保険料控除の特例が新設される見込みも報じられています。対象となる保険契約の要件や控除額の上限など、詳細な取り扱いについては国税庁からの案内を確認しながら対応することになります。
申告書様式の変更に注意
国税庁は令和8年6月30日付で、令和8年分の年末調整に関する各種様式を公表しています。基礎控除申告書や配偶者控除等申告書、特定親族特別控除申告書などについて、控除額の計算表や判定欄の金額が、改正後の内容に合わせて修正されています。
すでに令和8年分の扶養控除等申告書を年初に従業員から回収済みの企業も多いと思われますが、税制改正の内容によっては、年末調整の時点で新様式による再提出や、追加の申告書の回収が必要になる可能性があります。早めに最新の様式を国税庁のサイトで確認し、従業員への案内スケジュールを立てておくと安心です。
経理・労務担当者が今から準備しておきたいこと
- 利用している給与計算ソフトや年末調整システムが、令和8年度改正に対応したアップデートを予定しているか、提供元に確認する
- 国税庁が公表する最新の申告書様式を入手し、従業員へ配布・回収するスケジュールを前倒しで検討する
- 扶養親族等の所得要件の緩和により、新たに扶養控除等の対象となる従業員がいないか、早めに周知する
- 基礎控除・給与所得控除の引き上げにより、例年より還付額が大きくなる可能性があることを想定し、資金繰りや従業員への説明準備をしておく
従業員への説明で押さえておきたい伝え方
年末調整の変更内容は制度が複雑なため、従業員に一律の数字だけを伝えると誤解を招くことがあります。説明の際は、次のような伝え方を意識すると理解を得やすくなります。
- 「基礎控除と給与所得控除がどちらも引き上げられ、所得税がかからない給与収入の範囲が広がる方向の改正である」という大枠をまず伝える
- 具体的な控除額や課税最低限の金額は、個々の所得水準によって異なるため、一概に「いくら得になる」とは言えない旨を伝える
- 扶養親族の所得要件が緩和されることで、これまで扶養控除の対象外だった家族が新たに対象になる可能性があるため、心当たりのある従業員には早めの確認を促す
- 申告書の様式が変更される可能性があるため、会社から案内があった際は必ず新しい様式で提出してもらうよう周知する
よくある質問
Q. 令和8年分の年末調整は、いつから準備を始めればよいですか
例年、年末調整の書類配布は10月から11月にかけて行われることが多いですが、令和8年分は制度変更が多いため、給与計算システムの対応状況の確認や、従業員への事前周知は例年より早めに着手しておくと安心です。
Q. 月々の給与から天引きされる源泉徴収税額はいつから変わりますか
報道によれば、源泉徴収税額表への反映は令和9年(2027年)1月以降の給与から適用される見通しとされています。令和8年中は、月々の源泉徴収額を大きく変えず、年末調整の際に1年分をまとめて精算する形になる見込みです。ただし、この取り扱いは今後変更される可能性もあるため、国税庁の最新情報を確認してください。
Q. 中途採用者や年の途中で扶養親族が増減した場合はどうなりますか
年の途中で就職・退職した方や、扶養親族に異動があった方については、通常の年末調整の手続きに準じて、最新の状況にもとづいた申告書を提出してもらう必要があります。制度改正により所得要件の判定基準が変わっているため、例年以上に申告内容の確認を丁寧に行うことをおすすめします。
まとめ
令和8年(2026年)分の年末調整は、基礎控除・給与所得控除の引き上げや、扶養親族等の所得要件の緩和など、複数の税制改正が重なる年です。月々の源泉徴収額は大きく変わらない一方、年末調整で1年分をまとめて精算する仕組みのため、還付額が例年より大きくなるケースも想定されます。申告書の様式変更にも対応が必要になるため、国税庁が公表する最新情報をこまめに確認しながら、余裕を持って準備を進めることをおすすめします。

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