「生成AIが間違った情報を出したので、それをそのまま伝えてしまった」——このような場合、専門家としての責任はどう考えられるのでしょうか。断定的な結論を出すことは難しいテーマですが、基本的な考え方を整理しておくことは、リスク管理の第一歩になります。
専門家責任の基本的な考え方
税理士・社会保険労務士・行政書士などの専門家は、依頼者との契約(委任契約が一般的)にもとづき、専門家として通常期待される注意を払って業務を行う義務(善管注意義務)を負っています。この義務に違反し、依頼者に損害が生じた場合、債務不履行や不法行為にもとづく損害賠償責任を問われる可能性があります。
生成AIを使ったことは免責事由になるか
| 考え方 | 整理 |
| 「AIが間違えたから仕方ない」という主張 | 一般的には、専門家自身の確認義務を免れる理由にはなりにくいと考えられる |
| AIの回答を鵜呑みにせず、専門家が内容を確認したうえで伝えた場合 | 確認プロセスを経ていたことが、注意義務を尽くしていたことの一事情になりうる |
| 依頼者にAIを使ったことを伝えていたかどうか | 事前の説明の有無が、後のトラブル時の心証に影響する可能性がある |
一般的な考え方として、専門家が生成AIというツールを使って作業を効率化すること自体は問題ではありませんが、「AIが生成した内容だから、内容の正確性について専門家は責任を負わない」という主張は、通常は認められにくいと考えられます。専門家は、使用する道具(AIに限らず、計算ソフトや外部委託先も含め)の出力結果について、自らの専門的知見にもとづいて最終確認する義務を負っている、という整理が基本になります。
リスクを抑えるための実務対応
生成AIの回答をそのまま依頼者に伝えるのではなく、必ず自身の専門知識と照らし合わせて確認したうえで伝える、確認した根拠(参照した法令・通達等)を記録に残しておく、といった対応が、後のトラブルに備えるうえで有効です。本記事でこれまで紹介してきた「一次情報での裏付け確認」の習慣は、専門家責任の観点からも重要な意味を持ちます。
よくある質問
Q. 生成AIの利用について、依頼者との契約書に明記しておくべきか。
A. 必須ではありませんが、業務でAIを活用する旨と、最終的な確認・責任の所在を契約書や重要事項説明で明確にしておくことで、後のトラブルを予防しやすくなります。
Q. 生成AIの提供会社に責任を問うことはできるか。
A. AI提供会社の利用規約では、多くの場合、生成内容の正確性について保証しない旨が定められています。個別の事案について責任を問えるかは、契約内容や事案の性質によって異なり、弁護士への相談が必要です。
Q. 専門家賠償責任保険は、AIの利用に起因するミスもカバーするのか。
A. 保険の約款によって異なるため、加入している保険の内容を保険会社や代理店に確認しておくことが望まれます。
この記事全体を通じた基本姿勢
ここまで紹介してきた各記事に共通する考え方は、生成AIを「専門家の判断を代替するもの」ではなく「専門家の判断を助ける補助ツール」として位置づけることです。最終的な確認・判断・責任は専門家自身が負うという原則を事務所全体で共有し、日々の業務に落とし込んでいくことが、生成AI時代における専門家としての信頼を維持する土台になります。
まとめ
生成AIを利用したこと自体は、専門家としての注意義務を免れる理由にはならないと考えられるため、AIの回答は必ず専門家自身が確認したうえで依頼者に伝えることが重要です。事務所での社内ルール整備については、別記事「税理士・社労士事務所が生成AI導入時に整備すべき社内ルールの作り方」もあわせてご確認ください。

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