創業社長の勇退にあわせて役員退職金を支給する際、「いくらまでなら税務上問題なく損金算入できるのか」という相談を受けることがあります。役員退職金の適正額を判断する代表的な方法が「功績倍率法」です。
役員退職金の損金算入の原則
役員退職金は、原則として株主総会の決議等により具体的な支給額が確定した事業年度に損金算入されます。ただし、税務上「不相当に高額」と認められる部分の金額は、損金不算入とされます。この「不相当に高額」かどうかを判定する代表的な方法が功績倍率法です。
功績倍率法の計算式
功績倍率法では、「最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率」という計算式で、適正な退職金額(の目安)を算出します。功績倍率は役職によって異なり、一般的に社長は3.0倍程度、専務・常務は2.0〜2.4倍程度、平取締役は1.5〜1.8倍程度が目安とされることが多いですが、これは絶対的な基準ではなく、業種・業績・同規模同業種の支給実績などをもとに個別に判断されます。
功績倍率法の計算例
| 項目 | 例 |
| 最終報酬月額 | 100万円 |
| 勤続年数 | 30年 |
| 功績倍率(社長の目安) | 3.0倍 |
| 計算される退職金の目安 | 100万円 × 30年 × 3.0 = 9,000万円 |
この計算はあくまで目安であり、実際に「不相当に高額」かどうかは、同業種・同規模の他社における役員退職金の支給状況、その役員の在任期間中の会社への貢献度など、個別の事情を総合的に勘案して判断されます。功績倍率法による試算結果を大きく上回る金額を支給する場合は、その合理性を説明できる資料(取締役会議事録、功績を裏付ける実績資料など)を準備しておくことが望まれます。
実務上の注意点
役員退職金は金額が大きくなりやすいため、税務調査で「不相当に高額」と指摘されるリスクが比較的高い項目です。支給前に、退職慰労金規程を整備し、功績倍率の考え方や算定方法を明文化しておくこと、また、支給額の決定過程(株主総会・取締役会の決議)を適切に記録として残しておくことが、税務上のリスクを抑えるうえで重要です。
よくある質問
Q. 功績倍率法以外の算定方法もあるのか。
A. 支給実績の少ない会社などでは、同業他社の支給状況をもとにした「1年当たり平均額法」が用いられることもあります。どちらの方法が適切かは、会社の状況によって異なります。
Q. 退職金の一部を分割して支給することはできるか。
A. 資金繰りの都合等により分割支給することも可能ですが、支給の都度、株主総会等の決議内容や支給時期について、税理士と相談しながら整理することが望まれます。
Q. 死亡退職金の場合も同じ考え方が適用されるか。
A. 死亡退職金についても、功績倍率法などを用いて適正額を判断する考え方は基本的に同様ですが、弔慰金として別枠で非課税となる部分もあるため、あわせて確認が必要です。
退職慰労金規程の整備の重要性
功績倍率や退職金の算定方法をあらかじめ退職慰労金規程として明文化しておくことで、支給額の決定プロセスに客観性・合理性を持たせやすくなります。規程がないまま、退職のたびに個別に金額を決めていると、支給額の算定根拠を税務調査で説明することが難しくなるため、役員の在任中から規程を整備しておくことをおすすめします。
まとめ
役員退職金の適正額を判断する功績倍率法は、あくまで目安の一つであり、最終的には個別事情を踏まえた総合判断になります。退職慰労金規程の整備とあわせて、早めに税理士に相談することをおすすめします。役員に関する別の実務論点として、既存記事「役員報酬はどう決める?定期同額給与の仕組みと注意点」もあわせてご確認ください。

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