「決算数値をChatGPTに貼り付けて分析させたら早いのでは」――そう考えたことのある経理・税務担当者は少なくないでしょう。しかし、顧問先の情報を生成AIに入力する行為は、税理士法が定める守秘義務との関係で慎重な検討が必要です。
税理士法38条が定める守秘義務
税理士法38条は「税理士は、正当な理由がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、又は窃用してはならない。税理士でなくなった後においても、また同様とする。」と定めています。違反した場合、懲戒処分(業務停止や登録抹消等)に加え、税理士法59条により2年以下の懲役または100万円以下の罰金という刑事罰の対象にもなり得ます。この刑事罰は税理士事務所の従業員にも適用され得る点に注意が必要です。
生成AIへの入力が「秘密を漏らす」ことになるか
| 論点 | 考え方の整理 |
| 入力した情報がAI事業者の学習に利用される設定の場合 | 第三者(AI事業者)が情報にアクセスしうる状態となるため、守秘義務違反のリスクが高まる |
| 法人向けプラン等で学習利用がオプトアウトされている場合 | 情報の外部流出リスクは相対的に低いが、契約内容・セキュリティ体制の確認が前提となる |
| 氏名・法人名等を匿名化・抽象化して入力する場合 | 個別性を排除できていれば秘密の漏えいに該当しにくいと考えられるが、業種や規模等から推測可能な場合は注意が必要 |
一般に、利用しているAIサービスの利用規約で入力内容が学習データとして利用される旨が定められている場合、顧問先を特定できる情報をそのまま入力することは、守秘義務違反のリスクを高める行為と考えられます。逆に、学習利用をオプトアウトできる法人向けプランを使い、適切なアクセス管理のもとで利用する場合は、リスクを相対的に抑えることができます。
事務所として確認すべきポイント
生成AIを業務に導入する前に、利用するサービスの利用規約・プライバシーポリシーを確認し、入力データの取り扱い(学習利用の有無、保存期間、データセンターの所在地等)を把握しておくことが第一歩です。そのうえで、顧問先名・個人名・具体的な金額などを特定できる情報は入力しない、あるいは匿名化してから入力するといった所内ルールを設け、スタッフ全員に周知することが望まれます。
よくある質問
Q. 顧問先の同意があれば、生成AIに情報を入力してもよいか。
A. 顧問先の同意を得ることでリスクを軽減できる可能性はありますが、同意の範囲や取得方法によって効果は異なります。契約書や利用規約の内容とあわせて、顧問税理士会や弁護士に相談することが望まれます。
Q. 無料版と有料の法人向けプランでは、守秘義務の観点で何が違うのか。
A. 一般に法人向けプランでは、入力内容がAIの学習に利用されないオプトアウト設定や、より強固なセキュリティ対策が提供されていることが多く、無料版よりもリスクを抑えやすいとされています。ただし各サービスの利用規約を個別に確認する必要があります。
Q. 数値だけを抜き出して入力すれば問題ないか。
A. 具体的な数値であっても、業種・規模・時期等の情報と組み合わせることで顧問先が推測できる場合は、秘密の漏えいに該当するリスクが残ります。抽象化の程度についても慎重な判断が必要です。
社労士・行政書士にも共通する視点
守秘義務は税理士に限った話ではなく、社会保険労務士法21条や行政書士法12条など、士業に共通して定められている義務です。生成AIの活用を検討する際は、自身が拠って立つ資格法の守秘義務規定を確認したうえで、所属する会が示す指針やガイドラインも参考にすることが望まれます。
まとめ
顧問先の情報を生成AIに入力する際は、税理士法38条の守秘義務を踏まえ、利用するサービスのデータの取り扱いを事前に確認したうえで、匿名化や所内ルールの整備によってリスクを抑える工夫が欠かせません。事務所全体でのルールづくりについては、別記事「税理士・社労士事務所が生成AI導入時に整備すべき社内ルールの作り方」もあわせてご確認ください。

コメント