結論として、人事評価コメントの作成に生成AIを利用すること自体は禁止されていないが、社労士等の専門家からは、事実に基づかない評価内容が記載されるリスクや、画一的な表現によって評価の妥当性への疑念を招くリスクなど、複数の法的リスクが指摘されている。生成AIはあくまで文章化を補助する道具であり、評価内容そのものの妥当性を確認する責任は評価者自身に残る。
人事評価コメントに生成AIを使う場面
人事評価の場面では、評価者が部下の行動や成果を言語化し、フィードバックとしてコメントにまとめる作業に多くの時間がかかる。生成AIに評価のポイントを箇条書きで伝え、読みやすい文章に整えてもらうといった使い方が広がりつつある。表現を均一化し、伝わりやすいコメントを効率よく作成できる点が、活用が進む背景にある。
社労士が指摘する主な法的リスク
事実に基づかない評価内容が記載されるリスク
生成AIに簡単な指示だけを与えると、実際の行動や成果とは異なる内容を、もっともらしい表現で補って出力してしまうことがある。評価コメントに事実と異なる記載が残ったまま従業員に開示されると、評価の公正さそのものが疑われ、後の労務トラブルに発展しかねない。社労士等の専門家も、事実に基づかない評価内容が記載されるリスクを指摘している。
画一的な表現による不公平感・説明責任のリスク
生成AIに同じような指示を与えると、複数の従業員に対して似通った表現のコメントが生成されやすい。評価内容が画一的になると、従業員から見て自分の働きぶりが正しく評価されていないという不公平感につながる可能性がある。評価者には、なぜその評価に至ったかを説明する責任があり、AIが生成した定型的な文章だけでは、この説明責任を十分に果たせない場合がある点に注意が必要である。
個人情報の外部送信リスク
評価コメントを作成する際に、従業員の氏名や具体的な業務内容、プライベートな事情などを生成AIに入力すると、個人情報が外部のサービスに送信されることになる。人事労務分野での生成AI活用については、個人情報保護の観点からのリスクが社労士等から指摘されており、入力する情報の範囲をあらかじめ社内で定めておくことが求められる。
評価コメント作成で生成AIを使う際のチェックポイント
| 確認項目 | 内容 |
| 事実確認 | AIが生成した内容が実際の行動・成果と一致しているか、評価者自身が確認する |
| 個人情報の入力範囲 | 氏名や詳細な個人情報を入力せず、匿名化・抽象化した情報を使う |
| 表現の画一化 | 複数人に同じような表現を使い回していないか見直す |
| 最終確認者 | AIが生成した文章をそのまま使わず、評価者が最終的な内容に責任を持つ |
人事評価に生成AIを取り入れる際の具体例
たとえば、評価者が生成AIに「協調性が高かった」という一言だけを伝えて評価コメントの作成を依頼すると、AIが具体的なエピソードを推測で補い、実際には確認していない行動を「協調性を発揮した具体例」として記載してしまうことがある。このような出力をそのまま従業員に開示すると、事実と異なる内容が評価記録として残ってしまうため、評価者は必ずAIの出力と実際の行動を照合する必要がある。
社内での運用ルール整備
人事評価コメントに生成AIを使う場合は、個人の判断に任せるのではなく、入力してよい情報の範囲や、AIが生成した文章を確認する手順を、社内のルールとして明文化しておくことが望ましい。評価者ごとに運用がばらつくと、部署間で評価コメントの質や公正性に差が生じ、従業員からの信頼を損なうおそれがある。
人事担当者が押さえておくべき考え方
人事評価コメントに限らず、人事担当者が生成AIを業務に使う場面全般について、個人情報保護や差別的取扱いの観点から違法となり得るケースが指摘されている。評価コメントの作成にAIを取り入れる際は、こうした人事労務分野全体のリスクも踏まえたうえで、社内での利用ルールを整備しておくことが望ましい。詳しくは別記事「人事担当者がAIを業務に使うと違法になり得るケースとは?労務トラブルの防ぎ方」も参考にしてほしい。
よくある質問
Q. 人事評価コメントを生成AIに全て任せてもよいか。
生成AIに評価コメントの文章化を任せること自体は禁止されていないが、評価内容が事実に基づいているかどうかの最終確認は、評価者自身が行う必要がある。AIが生成した文章をそのまま従業員に開示するのではなく、必ず内容を見直したうえで使用することが求められる。
Q. 生成AIが作成したコメントが原因でトラブルになった場合、責任は誰が負うか。
生成AIはあくまで評価者の指示に基づいて文章を作成する道具であり、評価コメントの内容について最終的な責任を負うのは、その文章を承認して開示した評価者や会社側になると考えられる。AIの出力をそのまま使ったことを理由に責任を免れることは難しいため、内容の確認体制を整えておくことが重要である。
Q. 評価対象者の個人情報をAIに入力してよいか。
評価対象者の氏名や具体的な業務内容などをそのまま生成AIに入力すると、個人情報保護の観点から懸念が生じる。入力する情報は匿名化・抽象化したうえで、必要最小限にとどめることが望ましい。利用する生成AIサービスの規約や、入力データの取り扱いについても事前に確認しておく必要がある。
まとめ
人事評価コメントの作成に生成AIを活用することは、文章化の負担を軽減するうえで有効だが、事実に基づかない評価や画一的な表現による不公平感、個人情報の外部送信といった法的リスクが社労士等から指摘されている。生成AIはあくまで文章を整える補助として位置づけ、評価内容の妥当性の確認と最終判断は、引き続き評価者自身が担う体制を維持することが重要である。

コメント