36協定(時間外労働・休日労働に関する協定届)の作成において、生成AIは下書き作成や記載漏れのチェックリストづくりといった補助的な場面では活用できる。ただし、労使間の合意内容そのものや、法定要件を満たしているかどうかの最終判断は生成AIに任せることはできず、労務担当者や社会保険労務士など専門家による確認が欠かせない。
労務管理における生成AI活用が注目される背景
近年、社会保険労務士事務所や企業の労務担当者の間で、ChatGPTなどの生成AIツールを日常業務に取り入れる動きが広がっている。就業規則や各種届出書類など、定型的な内容を含む書類の作成業務は、生成AIによる効率化が期待されやすい分野のひとつであり、36協定届もその例外ではない。もっとも、労務関連の書類は法令に基づく要件を満たす必要があるため、効率化と正確性の両立をどう図るかが実務上の課題となる。
36協定届とはどのような手続きか
36協定とは、労働基準法36条に基づき、法定労働時間を超えて時間外労働や休日労働をさせる場合に、労働者代表と使用者との間で締結し、所轄の労働基準監督署に届け出る労使協定のことを指す。届出の様式や記載すべき項目、有効期間の考え方などは制度上の取り扱いによって変わり得るため、最新の様式・記載要領は厚生労働省や所轄の労働基準監督署の案内など公式情報で必ず確認してほしい。
生成AIが36協定届の作成でできること
下書き・たたき台の作成
自社の勤務実態や過去の協定内容を入力し、生成AIに36協定届に記載する項目の下書きを作らせることで、ゼロから文章を組み立てる手間を減らせる。特に、時間外労働をさせる必要がある具体的な事由の説明文など、定型的な文言をたたき台として出してもらう用途では効率化が期待できる。
記載事項のチェックリスト化
36協定届に記載すべき項目を、生成AIにチェックリスト形式で整理させることも可能だ。例えば「業務の種類」「労働者数」「延長できる時間数」「協定の有効期間」といった記載欄について、担当者が入力した内容に抜け・矛盾がないかを一次的に洗い出す用途で活用できる。ただし、生成AIが提示するチェック項目自体が最新の様式と一致しているとは限らないため、必ず公式の様式・記載要領と突き合わせる必要がある。
過去の協定内容との整合性確認
複数の事業場や部署で36協定を締結している企業では、過去の協定内容や社内規程との整合性を生成AIに比較させることで、記載内容のばらつきに気づきやすくなる。表現の統一やフォーマットの標準化といった、事務作業としての効率化に向いている活用法である。
生成AIに任せるべきではない部分
一方で、労働者代表の選出手続きが適法に行われているか、協定内容が労働基準法の要件を満たしているか、時間外労働の上限規制との関係で問題がないかといった実質的な判断は、生成AIによる自動生成では代替できない。生成AIはあくまで社内にある情報を整理・要約する道具であり、法令適合性を判断する主体にはなり得ない点を理解しておく必要がある。届出内容の適否について不安がある場合は、社会保険労務士など専門家に確認することが望ましい。
特別条項付きの36協定を締結する場合には、通常の届出以上に記載事項や手続き上の留意点が増えるとされている。こうしたケースでは特に、生成AIが整理した内容をそのまま鵜呑みにせず、社会保険労務士など専門家に相談しながら進めることが望ましい。
36協定届作成での役割分担の例
| 作業内容 | 生成AIに向く範囲 | 人が確認すべき範囲 |
| 記載項目の下書き作成 | 定型文言のたたき台作成 | 自社の実態に即した内容かの確認 |
| 記載漏れのチェック | 入力内容の一次チェック | 最新の様式・記載要領との照合 |
| 労働者代表の選出確認 | 対応不可 | 適正な手続きで選出されているかの確認 |
| 法定要件との整合性判断 | 対応不可 | 労働基準法の要件充足の最終判断 |
よくある質問
Q.生成AIに36協定届の様式そのものを作成させてもよいか。
生成AIに様式の下書きを作らせること自体は可能だが、様式は改正されることがあるため、必ず厚生労働省や所轄の労働基準監督署が公表している最新の様式を確認し、そこに沿った内容になっているかを人が照合する必要がある。生成AIが出力した内容をそのまま提出用の届出書として使うことは避けたい。
Q.生成AIを使うことで36協定届の作成時間はどの程度短縮できるか。
短縮できる時間は企業の状況や活用方法によって異なり、一概に断定できる数値はない。定型的な文言の下書きやチェックリスト作成といった補助的な作業では時間短縮が期待できる一方、内容確認や最終判断にかかる時間は変わらないため、全体としてどの程度効率化できるかは実際に運用しながら見極める必要がある。
Q.労働者代表の選出についても生成AIに相談してよいか。
労働者代表の選出方法について一般的な考え方を整理してもらう程度であれば参考になる場合もあるが、実際に自社で適正な手続きが取られているかどうかの判断は、生成AIではなく労務担当者や社会保険労務士が確認すべき事項である。選出方法に疑義がある場合は、専門家に相談することが望ましい。
まとめ
36協定届の作成において、生成AIは下書き作成やチェックリストづくりといった補助的な業務では有効に活用できる。しかし、労働者代表の選出手続きの適法性や、協定内容が法定要件を満たしているかどうかの最終判断は、引き続き人が担うべき領域である。生成AIを事務作業を効率化する道具として位置づけたうえで、記載内容の正確性については最新の公式情報や専門家の確認を組み合わせて運用することが望ましい。

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