士業事務所が業務に生成AIを利用する場合、顧客の情報を生成AIサービスに入力する可能性がある以上、あらかじめ顧客に対して利用の有無や範囲を説明し、必要に応じて同意を得ておくことが望ましい。説明を怠ると、顧客との信頼関係やトラブル発生時の対応に影響しかねない。
なぜ顧客への説明・同意が必要とされるのか
顧客情報の外部送信という側面
生成AIサービスに顧客の氏名や取引内容、相談内容などを入力することは、外部のシステムに顧客情報を送信する行為にあたる。人事労務や相続、特許出願など機密性の高い情報を扱う士業分野では、出願前の発明情報を外部の生成AIサービスに入力することの情報管理リスクが指摘されているように、顧客情報の取り扱いについても同様の注意が必要になる。
生成AIの誤り・限界への理解
生成AIは事実と異なる内容を出力する、いわゆるハルシネーションを起こす可能性がある。顧客に提供する助言や書類の作成過程で生成AIを利用している場合、その出力を専門家が確認したうえで最終的な内容としていることを伝えることは、顧客が結果を正しく理解するうえでも役立つと考えられる。生成AIの活用を伏せたまま成果物だけを提供し、後になって利用の事実が判明した場合、内容自体に問題がなくても顧客の不信感につながりかねない点にも留意したい。
説明・同意を得る際の考え方
説明する内容の整理
顧客への説明では、どのような業務で生成AIを利用しているか、顧客情報を入力する可能性があるか、入力する場合はどのような情報管理を行っているか、最終的な確認は専門家が行っていることなどを整理して伝えることが考えられる。契約書や業務委託の説明資料に、生成AI利用に関する項目を設ける事務所もあるとされる。
同意を得るタイミング
顧客との契約時や業務委託の開始時に、生成AI利用についての説明を行い、同意を得ておくことが望ましいとされる。既に契約している顧客について新たに生成AIの利用を始める場合も、利用範囲を説明したうえで、必要に応じて同意を確認しておくことが、後のトラブルを防ぐことにつながる。
同意が得にくい業務での対応
相続やハラスメント相談など、特に機密性が高く心理的な配慮が求められる業務では、顧客や相談者が生成AI利用そのものに抵抗感を持つ場合もある。こうした業務では、生成AIを利用する範囲を事務作業の効率化などに限定し、相談内容そのものの入力は避けるといった線引きを事前に決めておくことで、説明・同意のハードルを下げられる場合がある。
説明資料や契約書への記載例のイメージ
具体的な文言を一律に定めることは難しいが、契約書や重要事項説明資料の一項目として、「業務の一部において生成AIサービスを利用する場合がある」「入力する情報は業務に必要な範囲にとどめ、外部への学習利用を行わない設定のサービスを選定する」「生成AIの出力内容は専門家が確認したうえで最終的な成果物とする」といった趣旨を盛り込むことが考えられる。事務所ごとに扱う業務の性質が異なるため、実際の文言は自事務所の業務内容に合わせて調整する必要がある。
既存顧客への周知方法
すでに契約している顧客に対しては、契約更新のタイミングや、定期的な通信・案内文書のなかで生成AI利用に関する方針を周知する方法が考えられる。個別の相談内容など機密性の高い情報を新たに生成AIサービスへ入力する予定がある場合は、通知だけでなく、個別に説明の機会を設けて同意を確認することが望ましい。
実務上のチェックポイント
| 確認項目 | 内容 |
| 利用業務の範囲 | どの業務で生成AIを利用しているかを明確にする |
| 情報入力の範囲 | 顧客情報を入力する場合の範囲と管理方針 |
| 最終確認の主体 | 専門家が最終的な確認を行っていることの明示 |
| 説明のタイミング | 契約時・業務開始時に説明し同意を確認する |
よくある質問
Q. 生成AIを利用していることを顧客に伝えないと違法になるか。
現時点で一律に説明が法律上義務付けられているわけではないが、顧客情報を生成AIサービスに入力する可能性がある場合は、顧客との信頼関係を保つ観点から説明しておくことが望ましいとされる。業務内容や扱う情報の性質によって望ましい対応は異なるため、個別に判断する必要がある。
Q. すべての生成AI利用について同意書を取る必要があるか。
生成AIの利用範囲や扱う情報の機密性によって、必要な説明の程度は異なると考えられる。顧客情報を直接入力する場合はより丁寧な説明と同意確認が望ましい一方、社内の文書作成の効率化など顧客情報を伴わない利用については、同意書までは不要な場合もある。
Q. 顧客が生成AI利用に同意しない場合はどうすればよいか。
顧客が同意しない場合は、その顧客に関する業務では生成AIへの情報入力を避け、従来どおり専門家自身の作業で対応するなど、顧客ごとに対応を分ける運用が考えられる。事務所内であらかじめ代替の業務フローを用意しておくと対応しやすくなる。
まとめ
士業事務所が生成AIを業務に利用する際には、顧客情報の外部送信という側面や生成AIの誤りの可能性を踏まえ、利用範囲や情報管理の方針をあらかじめ整理し、顧客に説明したうえで必要に応じて同意を得ておくことが望ましい。契約時の説明資料に生成AI利用の項目を設けるなど、事務所として一貫した運用を整えておくことが、顧客との信頼関係を保つうえで重要になる。業務の性質によって求められる説明の丁寧さは異なるため、画一的な対応にこだわらず、扱う情報の機密性に応じた柔軟な運用を心がけたい。

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