毎年3月から4月にかけて、給与計算の担当者は社会保険料率の改定に対応する必要があります。令和8年度(2026年度)も例外ではなく、健康保険料率や介護保険料率の見直しに加え、新たに「子ども・子育て支援金」という制度が始まる点が大きな特徴です。料率の改定タイミングと反映月がずれることもあり、給与計算システムの設定ミスにつながりやすい時期でもあります。この記事では、令和8年度の社会保険料率について、給与計算担当者の視点から実務上のポイントを整理します。なお、保険料率は加入している健康保険組合や都道府県によって異なる場合があるため、自社の正確な料率は協会けんぽや加入先の健康保険組合の公表資料で必ず確認してください。
令和8年度の社会保険料率、何が変わったか
健康保険料率は引き下げの見込み
協会けんぽ(全国健康保険協会)の健康保険料率は都道府県ごとに設定されていますが、令和8年度は全国平均でみると前年度の10.0%から9.90%程度への引き下げが予定されています。都道府県別では、保険料率が最も高い地域と低い地域とで1%以上の差があるとされ、自社の所在地に応じた料率を確認することが欠かせません。健康保険組合に加入している企業の場合は、協会けんぽとは異なる独自の料率が設定されているため、必ず加入先の組合が公表する料率表を確認しましょう。
介護保険料率はわずかに上昇
40歳から64歳までの従業員が負担する介護保険料率については、令和8年度はわずかに引き上げられる見込みとされています。全国一律の料率として設定されており、対象年齢の従業員がいる場合は給与計算上の設定を忘れずに更新する必要があります。
厚生年金保険料率は据え置き
厚生年金保険の保険料率は平成29年9月以降、労使合わせて18.3%(会社・従業員それぞれ9.15%ずつ)で固定されており、令和8年度もこの水準が維持される見込みです。厚生年金については料率変更の心配は基本的にありませんが、標準報酬月額の定時決定(算定基礎届)による等級の見直しは毎年発生するため、あわせて確認しておくとよいでしょう。
雇用保険料率にも改定の動き
雇用保険料率についても、雇用情勢や雇用保険財政の状況を踏まえて毎年度見直しが行われています。令和8年度は、一般の事業を中心に料率がわずかに引き下げられる方向性が報じられていますが、事業の種類(一般の事業、農林水産・清酒製造の事業、建設の事業)によって料率が異なるため、自社がどの区分に該当するかを踏まえて確認することが必要です。正式な料率は厚生労働省の公表資料で確定しますので、必ず一次情報を確認しましょう。
新設される「子ども・子育て支援金」に注意
令和8年度から新たに始まるのが「子ども・子育て支援金」です。これは、少子化対策の財源を確保する目的で創設された制度で、医療保険料とあわせて徴収される仕組みになっています。健康保険料率などの改定が3月分(4月納付分)から適用されるのに対し、子ども・子育て支援金の徴収開始は多くの事業所で1か月遅れの4月分(5月納付分)から始まるとされており、料率改定と支援金の徴収開始が別々のタイミングで発生する点が実務上の落とし穴になりやすいところです。給与計算システムのマスター設定を更新する際は、どの月の給与から何が変わるのかを分けて管理することをおすすめします。
給与計算担当者が実務で確認すべきポイント
適用時期のズレを一覧化する
社会保険料率の改定は、多くの場合「3月分(4月納付分)」から適用されますが、給与計算のタイミング(当月払い・翌月払いなど)によって、実際に新しい料率を反映する給与支給月は会社ごとに異なります。まずは自社の給与計算スケジュールと照らし合わせて、いつ支給する給与から新料率を反映すべきかを明確にしておきましょう。
給与計算システムのマスター更新を忘れずに
クラウド給与計算ソフトを利用している場合、多くのサービスでは料率が自動更新されますが、自社で率を手入力している場合や、健康保険組合独自の料率を使っている場合は、システムのマスターデータを手動で更新する必要があります。特に令和8年度は「健康保険・介護保険料率の改定」と「子ども・子育て支援金の追加」が近い時期に重なるため、更新漏れがないよう二重チェックを行うことが望ましいです。
従業員への周知も忘れずに
保険料率が変わると、多くの場合は手取り額にも影響します。特に子ども・子育て支援金のような新しい項目が給与明細に追加される場合、従業員から問い合わせが増えることが予想されます。給与明細の様式変更とあわせて、社内向けに簡単な説明資料を用意しておくと、問い合わせ対応の負担を減らすことができます。
労働保険料(労災保険)についても確認しておく
社会保険料とあわせて確認しておきたいのが、労働保険料のうち労災保険料です。労災保険料は全額を事業主が負担する仕組みで、業種によって料率が細かく分かれています。雇用保険料とは異なり従業員負担がないため給与計算に直接は反映されませんが、年度更新(労働保険の申告・納付手続き)の際に必要な情報であるため、雇用保険料率の改定とあわせて、自社が該当する業種区分の料率を確認しておくとよいでしょう。
標準報酬月額の定時決定(算定基礎届)も忘れずに
保険料率の改定とは別に、毎年7月には標準報酬月額を見直す「定時決定」の手続きがあります。4月・5月・6月に支払われた報酬の平均額をもとに、9月分(10月納付分)からの標準報酬月額が決まる仕組みです。料率が変わらなくても、標準報酬月額の等級が変われば従業員ごとの保険料額は変動します。令和8年度のように料率改定が重なる年度は、「料率が変わるタイミング」と「等級が変わるタイミング」の両方を混同しないよう、給与計算のスケジュール表などに整理しておくと実務上のミスを防ぎやすくなります。
中小企業が注意したい実務上のポイント
社会保険労務士や税理士と顧問契約を結んでいない小規模な事業者の場合、料率改定の情報を自分で収集し、給与計算ソフトの設定を自分で更新する必要があります。協会けんぽの都道府県ごとの保険料額表は例年3月頃に公表されるため、この時期になったら協会けんぽの公式サイトを定期的にチェックする習慣をつけておくと安心です。顧問の社会保険労務士がいる場合でも、給与計算システムへの反映は自社で行うケースが多いため、いつ・誰が・どの設定を更新するのかをあらかじめ社内で決めておくことをおすすめします。
従業員から質問されやすいポイントをあらかじめ想定しておく
給与明細に記載される控除項目が増えたり、金額が変わったりすると、従業員から「なぜ手取りが減ったのか」という質問が寄せられることが多くなります。特に子ども・子育て支援金のような聞き慣れない項目が新設される場合は、制度の目的や金額の根拠をあらかじめ簡潔に説明できるよう準備しておくと、問い合わせ対応がスムーズになります。社内向けのFAQを一枚にまとめておき、給与明細と一緒に配布するといった工夫も効果的です。
まとめ
令和8年度は、健康保険料率の引き下げ、介護保険料率のわずかな引き上げに加えて、子ども・子育て支援金という新しい制度が始まる、給与計算担当者にとって特に注意が必要な年度です。料率や制度の詳細は、協会けんぽや加入先の健康保険組合、厚生労働省が公表する最新の資料で必ず確認し、適用時期のズレやシステムのマスター更新漏れがないよう、余裕を持ったスケジュールで対応を進めましょう。

コメント