就業規則の見直しや給与計算など、従業員一人ひとりの個人情報を扱う機会が多い社労士業務では、生成AIの活用における情報管理が特に重要な論点になります。
社会保険労務士法21条が定める秘密保持義務
社会保険労務士法21条は「社会保険労務士又は社会保険労務士法人の社員は、正当な理由がなく、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らし、又は窃用してはならない。社会保険労務士又は社会保険労務士法人の社員でなくなった後においても、同様とする。」と定めています。違反した場合は、同法32条2項により1年以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰の対象になります。
生成AI利用で特に注意すべき個人情報
| 情報の種類 | 入力時のリスク |
| 氏名・住所・生年月日等の基本情報 | 個人を特定できる情報であり、外部流出時の影響が大きい |
| 健康診断結果・傷病手当金の申請内容等 | 要配慮個人情報に該当し得るため、通常の個人情報よりも厳格な取り扱いが求められる |
| 給与・賞与の具体的な金額 | 従業員間の待遇差等、機微な情報が推測される可能性がある |
特に健康情報や病歴に関わる情報は、個人情報保護法上の要配慮個人情報に該当する可能性が高く、通常の個人情報以上に慎重な取り扱いが求められます。就業規則の相談や労務トラブルの整理で生成AIを使う場合は、個人を特定できる情報を伏せたうえで、制度や条文の一般的な考え方を確認する使い方にとどめることが望まれます。
全国社会保険労務士会連合会のガイドブック
全国社会保険労務士会連合会は、社労士業務への生成AI活用に向けて「社会保険労務士向け生成AI活用ガイドブック」および解説研修を会員向けに公開しています。守秘義務や個人情報保護の観点を踏まえた活用の考え方が示されているため、事務所での生成AI導入を検討する際は、こうした会が示す指針も参考にすることが望まれます。
よくある質問
Q. 従業員の氏名を仮名(A氏、B氏等)に置き換えれば、生成AIに入力しても問題ないか。
A. 氏名を伏せても、部署名・役職・勤続年数などの情報と組み合わせることで個人が特定できる場合は、秘密保持義務との関係でリスクが残ります。組み合わせ全体で個人を特定できないかを確認する必要があります。
Q. 就業規則の条文チェックに生成AIを使うことは問題ないか。
A. 就業規則の条文そのものは、通常は従業員個人の秘密情報とは言えないため、活用しやすい場面と考えられます。ただし、会社の内部方針など公開を前提としない情報が含まれる場合は注意が必要です。
Q. 生成AIの利用について、顧問先に説明する必要はあるか。
A. 法令上の明確な義務はありませんが、従業員の個人情報を扱う業務の性質上、顧問先との信頼関係の観点から、AI活用の方針を事前に共有しておく事務所が増えています。
事務所での実務対応
個人情報を含む相談内容をそのまま生成AIに入力しない、制度や条文の一般的な確認に用途を限定する、利用するAIサービスの学習利用設定を確認するといった基本ルールを整備することが、社労士事務所における現実的な対応策になります。スタッフ間でルールの認識にばらつきが出ないよう、書面化して周知することも重要です。
まとめ
社労士が生成AIを活用する際は、社会保険労務士法21条の秘密保持義務を踏まえ、従業員の個人情報を特定できる形で入力しないことを基本としたうえで、連合会が示すガイドブック等を参考に運用ルールを整えることが望まれます。ガイドブックの内容については、別記事「社会保険労務士向け生成AI活用ガイドブックとは?連合会が示す活用の考え方」もあわせてご確認ください。

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