パートやアルバイトとして働く方の間で「年収の壁」として意識されてきた「106万円の壁」が、2026年10月から撤廃されることになりました。2025年6月に成立した年金制度改正法により決定されたもので、短時間労働者が社会保険(厚生年金・健康保険)に加入する際の賃金要件がなくなる、大きな制度変更です。本記事では、106万円の壁とはそもそも何だったのか、他の年収の壁とどう違うのか、撤廃後は何が変わるのか、そしてパート・アルバイトとして働く方や企業がそれぞれ知っておきたい影響について解説します。
そもそも「106万円の壁」とは何だったのか
短時間労働者が社会保険に加入する要件
これまで、パートやアルバイトとして働く短時間労働者が勤務先の社会保険(厚生年金・健康保険)に加入するためには、一定規模以上の企業に勤務していることを前提に、週の所定労働時間が20時間以上であることに加え、賃金が月額8.8万円以上(年収換算でおおむね106万円以上)であることなど、複数の要件を満たす必要がありました。この月額8.8万円という賃金要件が、いわゆる「106万円の壁」と呼ばれてきたものです。
「103万円の壁」「130万円の壁」との違い
年収の壁には106万円の壁のほかにも複数の種類があり、混同されやすいため注意が必要です。「103万円の壁」は、給与所得者本人に所得税が発生するかどうかの目安として使われてきた、税制上の壁を指す言葉です(近年の税制改正により、この目安となる年収の水準は段階的に引き上げられています)。一方「130万円の壁」は、社会保険上、配偶者や親などの被扶養者として、自分自身で保険料を負担せずに健康保険・国民年金に加入できるかどうかの目安となる壁で、主に社会保険の適用対象とならない企業に勤務する方などに関係します。これに対して106万円の壁は、一定規模以上の企業に勤務する短時間労働者が、勤務先の社会保険への加入対象となるかどうかの壁であり、それぞれ根拠となる制度や対象者が異なる点を理解しておくことが大切です。
「壁」が就業調整の要因になっていた背景
賃金が106万円を超えると、新たに社会保険料の負担が発生し、その結果、手取り収入が一時的に減ってしまうことがあります。このため、扶養の範囲内で働くことを希望する方の中には、あえて年収が106万円を超えないよう、勤務時間を調整する「就業調整」を行うケースが見られました。こうした就業調整が、人手不足の一因になっているとの指摘もあり、制度の見直しが検討されてきました。
2026年10月の制度変更で何が変わるのか
賃金要件(月額8.8万円)が撤廃される
2025年6月13日に成立した年金制度改正法により、2026年10月から、この月額8.8万円という賃金要件が撤廃されることになりました。撤廃後は、週の所定労働時間が20時間以上であるなど、賃金要件以外の要件を満たせば、年収の金額にかかわらず社会保険の加入対象となる仕組みに変わります。つまり、実質的には「週20時間以上働けば社会保険に加入する」という形に整理されることになります。
企業規模要件は段階的に撤廃される見込み
現在、短時間労働者への社会保険適用拡大は、一定規模以上の企業(特定適用事業所)に勤務している場合が対象とされていますが、この企業規模要件についても、2027年10月以降、段階的に撤廃される見込みとされています。最終的には2035年10月を目途に、企業の規模にかかわらず、要件を満たす短時間労働者が広く社会保険の適用対象となることが見込まれています。ただし、段階的な移行スケジュールの詳細については、今後の政省令等で明らかにされる部分もあるため、確定情報は厚生労働省など公的機関の発表を確認するようにしましょう。
パート・アルバイトや企業が知っておきたい影響
パート・アルバイトとして働く方への影響
賃金要件が撤廃されると、これまで扶養の範囲内で働くために就業調整をしていた方にとっては、より柔軟に働き方を選べるようになる可能性があります。一方で、新たに社会保険への加入対象となることで、保険料負担が生じ、手取り収入が一時的に減少する場合もあります。その代わりに、将来受け取る厚生年金の額が増えたり、傷病手当金や出産手当金など健康保険の給付を受けられるようになったりするメリットもあるため、目先の手取り額だけでなく、長期的な観点から働き方を検討することが大切です。
税制上の扶養(配偶者控除・扶養控除)とは別の制度である点に注意
106万円の壁が撤廃されても、税制上の配偶者控除や扶養控除の所得要件がなくなるわけではありません。社会保険の加入要件と、所得税・住民税における扶養の要件は、それぞれ異なる制度に基づいて判定されるため、社会保険に加入することになった場合でも、税制上の扶養から外れるかどうかは別途、年収の水準に応じて判断する必要があります。両者を混同してしまうと、手取り額の見通しが実際とずれてしまうこともあるため、社会保険上の壁と税制上の壁は別の制度であるということを、切り分けて理解しておくことが大切です。
企業側が準備しておきたいこと
企業にとっては、社会保険の加入対象者が増えることで、法定福利費(社会保険料の事業主負担分)が増加することが避けられません。人件費への影響を見据え、対象となる従業員の把握や、必要に応じた採用計画・シフト体制の見直しを、施行時期である2026年10月に向けて早めに検討しておくことが望ましいでしょう。また、手取り収入の減少を懸念する従業員に向けて、制度変更の内容や会社としての対応方針を、丁寧に説明しておくことも重要な準備の一つです。
企業独自の家族手当・扶養手当への影響
企業によっては、社会保険の扶養要件とは別に、配偶者の年収が一定額以下であることを条件とした家族手当・扶養手当を、独自の制度として支給している場合があります。こうした手当の支給基準は、社会保険の適用要件や税制上の扶養控除の要件とは異なる、企業ごとの就業規則・賃金規程に基づくものです。106万円の壁の撤廃によって社会保険の加入対象が広がることをきっかけに、家族手当の支給基準を見直す企業も出てくると考えられるため、労務担当者は自社の手当制度が今回の制度変更とどう関係するのかを、あわせて整理しておくとよいでしょう。
まとめ
「106万円の壁」は、2025年6月に成立した年金制度改正法に基づき、2026年10月に賃金要件が撤廃される予定です。これにより、週20時間以上働く短時間労働者は、年収にかかわらず社会保険の加入対象となる仕組みに変わっていきます。106万円の壁は、103万円の壁や130万円の壁とは異なる制度であり、税制上の扶養要件も別途存在するため、それぞれを混同しないよう整理しておくことが大切です。パート・アルバイトとして働く方にとっては働き方を見直すきっかけに、企業にとってはコスト面・体制面での準備が必要になる制度変更です。詳細な運用ルールについては、今後厚生労働省から示される情報を確認しながら、早めの対応を進めていきましょう。

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