2026年10月から、健康保険・厚生年金保険に「保険料調整制度」という新しい仕組みが始まりました。同じタイミングで短時間労働者の賃金要件(月額8.8万円以上)も撤廃されており、パートの方の社会保険加入はこれから一気に広がっていく流れです。
とはいえ、「会社が保険料を多めに払うということは、結局うちの負担が増えるのでは?」「どの会社が使えるの?」と、ピンとこない経営者の方や給与担当の方も多いのではないでしょうか。この記事では、日本年金機構が公表している内容をもとに、制度のしくみ・対象・手続き・注意点を順番に整理していきます。
保険料調整制度とはどんな制度?
ひとことで言うと、新しく社会保険に加入することになった短時間労働者が「手取りが減るから」と働く時間を抑えなくて済むように、保険料の本人負担を一時的に軽くする制度です。
しくみとしては、本人負担分の一部を事業主がいったん追加で負担し、その追加負担分はあとで事業主に還付される流れになっています。日本年金機構は、制度を利用しても事業主が最終的に納付する保険料は増えないこと、従業員が将来受け取る年金額も減らないことを明示しています。
軽減される期間は、事業所が制度の利用を申し出た月から通算3年間です。1〜2年目と3年目で軽減割合が変わり、3年目は1〜2年目の半分になります。
保険料調整制度を使える事業所・使えない事業所
どの会社でも使えるわけではなく、これから短時間労働者の加入が始まる(または始めた)事業所が対象になっている点がポイントです。日本年金機構の案内では、次のいずれかに当てはまる事業所が対象とされています。
| 区分 | 対象になる事業所 | 申出期限 |
| (1) | 2026年10月1日〜2035年9月30日に任意特定適用事業所になった事業所 | 任意特定適用事業所になった日から2年を経過した日が属する月の前月まで |
| (2) | 2027年10月1日以降の適用拡大で特定適用事業所になった事業所 | 特定適用事業所になった日から2年を経過した日が属する月の前月まで |
| (3) | 任意適用事業所のうち、2027年10月1日〜2035年9月30日に被保険者数51人以上で特定適用事業所になった個人事業所 | 特定適用事業所になった日から2年を経過した日が属する月の前月まで |
| (4) | 2035年10月1日以降に任意適用事業所になった個人事業所 | 任意適用事業所になった日から2年を経過した日が属する月の前月まで |
(2)の適用拡大は段階的に進む予定で、厚生年金保険の被保険者数でいうと、2027年10月から36〜50人、2029年10月から21〜35人、2032年10月から11〜20人、2035年10月1日から10人以下の事業所が順番に対象になっていきます。
一方で、2026年10月1日の時点ですでに特定適用事業所(任意特定適用事業所を含む)になっている事業所は対象外です。つまり、すでに短時間労働者を社会保険に加入させている従業員51人以上の会社は使えないため注意しましょう。上の(1)〜(4)に当てはまる前に被保険者数が常時51人以上になった事業所も対象外です。
対象になる従業員(調整対象者)
制度を利用する事業所で軽減の対象になるのは、次の2つをどちらも満たす被保険者です。
・短時間労働者として健康保険・厚生年金保険に加入している人
・標準報酬月額が126,000円以下の人
ここでいう短時間労働者とは、週の所定労働時間または月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3未満で、週の所定労働時間が20時間以上、かつ学生ではない人のことです。フルタイムの正社員は対象になりません。
また、制度は事業所単位で適用されるため、「Aさんだけ使う」といった選び方はできません。利用する事業所では、条件に当てはまる全員に適用される点を押さえておきましょう。なお、70歳以上で任意加入している人(高齢任意加入被保険者)、複数の事業所で加入している人、産前産後休業・育児休業等で保険料が免除されている人は対象外です。70歳以上の被保険者は、健康保険料のみが対象になります。
どれくらい保険料が軽くなる?
軽減の割合は標準報酬月額によって決まっており、給与が低い人ほど軽減が大きくなる設計です。日本年金機構が示している負担割合は次のとおりです。
| 標準報酬月額 | 1〜2年目 負担割合(本人:事業主) | 3年目 負担割合(本人:事業主) |
| 88,000円以下 | 25:75 | 37.5:62.5 |
| 98,000円 | 30:70 | 40:60 |
| 104,000円 | 36:64 | 43:57 |
| 110,000円 | 41:59 | 45.5:54.5 |
| 118,000円 | 45:55 | 47.5:52.5 |
| 126,000円 | 48:52 | 49:51 |
本来は労使で折半(50:50)なので、たとえば標準報酬月額88,000円の人であれば、1〜2年目は本人負担が半分になるイメージです。
厚生年金保険料(保険料率18.3%)で見た、1か月あたりの本人の軽減額の例は次のとおりです。
| 標準報酬月額 | 1〜24か月目の軽減額 | 25〜36か月目の軽減額 |
| 88,000円 | 4,026円 | 2,013円 |
| 98,000円 | 3,587円 | 1,793円 |
| 104,000円 | 2,664円 | 1,332円 |
| 110,000円 | 1,812円 | 906円 |
| 118,000円 | 1,080円 | 540円 |
| 126,000円 | 461円 | 231円 |
軽減額は「標準報酬月額×保険料率×保険料軽減割合」で計算します。賞与にかかる保険料、介護保険料、子ども・子育て支援金は軽減の対象外のため、給与計算の際は注意が必要です。健康保険料は加入している保険者の料率によって変わるので、協会けんぽであれば都道府県別の料額表、健康保険組合であれば各組合に確認してください。
事業主が多く払った分はどうなる?お金の流れ
毎月の流れは、おおまかに次のとおりです。
まず、対象者の給与からは軽減後の本人負担分だけを控除します。毎月20日頃に届く納入告知書に基づいて、本人負担分・事業主負担分に加えて「事業主追加負担額」もあわせて翌月末の納付期限までに納めます。その追加負担額は、3か月後の保険料額から差し引く形で還付され、日本年金機構から「保険料調整通知書」が届くしくみです。
ここで大事なのが、納付期限までに納めず、督促状の指定期限までにも納めなかった場合、その月の追加負担額は還付されないという点です。「最終的に負担は増えない」というのは、きちんと期限内に納付していることが前提になります。資金繰りが厳しい時期でも、社会保険料の納付は後回しにしないようにしましょう。
保険料調整制度の手続きと注意点
保険料調整開始申出書を提出する
制度を使うには、事業主が「保険料調整開始申出書」を事務センターまたは管轄の年金事務所に提出します。提出方法は郵送か窓口持参で、添付書類はありません。様式は日本年金機構のホームページからダウンロードできます。
申出期限は、制度の利用が可能になった日から2年が経過した日が属する月の前月までです。制度の利用開始月は申出書が受け付けられた月で、さかのぼって利用することはできないため、使うと決めたら早めに提出するのが鉄則です。
一度始めたら途中でやめられない
見落としがちなのがこの点です。保険料調整制度は、事業主の申出で途中でやめることができません。利用期間中は、標準報酬月額に応じた追加負担を必ず続ける必要があります。
例外として、申出期限内に対象者が0人になった場合は、その月から自動停止になります。自動停止の期間は通算3年から除かれ、申出期限内に「保険料調整停止解除申出書」を提出すれば再開できます。申出期限を過ぎてから対象者が0人になった場合は自動停止されない点もあわせて覚えておきましょう。
実務において、本当に見落としが多いところです。
導入前に確認しておきたいこと
実務的には、次の3つを事前に確認しておくと安心です。
・給与計算ソフトが保険料調整制度の控除額に対応しているか(軽減後の本人負担の計算、3年目の割合変更)
・追加負担分を一時的に立て替える資金繰りに余裕があるか(還付は3か月後)
・対象となるパートの方への説明(軽減は通算3年間で、3年目は軽減が半分になること、年金額は減らないこと)
あわせて、資格取得届・資格喪失届・月額変更届などを迅速かつ正確に提出することも、日本年金機構から求められています。標準報酬月額が変われば軽減割合も変わるため、届出の遅れはそのまま保険料計算のズレにつながります。
よくある質問
Q. 保険料調整制度を使うと会社の保険料負担は増えるのか。
日本年金機構は、制度を利用しても事業主が最終的に納付する保険料は増えないと案内しています。事業主が一時的に追加負担した分は、3か月後の保険料から差し引く形で還付されるしくみです。ただし、納付期限と督促状の指定期限までに納付しなかった月の追加負担額は還付されないので注意してください。
Q. 従業員51人以上の会社でも使えるのか。
2026年10月1日時点ですでに特定適用事業所(任意特定適用事業所を含む)になっている事業所は対象外です。対象になるのは、2026年10月以降に任意特定適用事業所になった事業所や、2027年10月以降の適用拡大で新たに特定適用事業所になる事業所などに限られます。
Q. 一部のパート従業員だけに使うことはできるのか。
できません。制度は事業所単位で適用されるため、利用する事業所では標準報酬月額126,000円以下の短時間労働者の被保険者全員に適用されます。
Q. 保険料が軽減されると将来の年金は減るのか。
減りません。日本年金機構は、制度を利用して被保険者の保険料が軽減されても、将来受け取る年金額は減らないと明示しています。
Q. 健康保険組合に加入している場合はどうなるのか。
健康保険料の具体的な軽減額や取扱いは、加入している健康保険組合に確認してください。協会けんぽ管掌の場合は、協会けんぽが公表している都道府県別の料額表で確認できます。
まとめ
保険料調整制度は、2026年10月に始まった、新たに社会保険に加入する短時間労働者の保険料負担を通算3年間軽くする制度です。事業主の追加負担はあとで還付されるので最終的な負担は増えず、従業員の年金額も減りません。
ただし、使えるのは2026年10月以降に任意特定適用事業所になった事業所や、2027年10月以降の適用拡大で特定適用事業所になる事業所などに限られます。申出はさかのぼれず、一度始めたら途中でやめられないため、給与計算ソフトや資金繰り、従業員への説明まで準備したうえで判断しましょう。迷ったときは、顧問の税理士や社労士に早めに相談してください。

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